ブームがブームで終わる前に
先日開催されたSBIアートオークションが合計で16億6900万円の落札総額となり過去最高のレコードを更新した。
国内のオークションブームは続いているように見えるが、海外との規模で比べるとこのブームはまだ「さざ波」程度だ。
草間彌生や奈良美智の値上がりはすでに落ち着いており、海外のオークションでは決して見られることにない一部のイラスト系アートが異常なほどの高値を付けて盛り上がっている。
こちらの分析については来週以降、数回に分けてレポートしていきたいと思うが、それ以外で特筆されるのは、スプツニ子!を始めとする8点のNFTアートがはじめて出品され、いずれも高値で落札されたことだ。
さて、この昨今のNFTアートのブームの現実の姿について考察し、今後どうなっていくのかについて述べていこう。
投資ではなくて投機で買う人たち
以前のコラムでも述べたのだが、NFTアートであれば何でもよいとばかりに買っている人がいるのは事実だ。
おそらく仮想通貨のETH(イーサ)を保有している方が多く、こういうタイプのコレクターはアートを「投資」ではなく、「投機」として考えていると思われる。
すでにNFTアートを購入している人がどういうタイプかというと、市場におけるユーザー層をその普及率に合わせて5つに分類した以下の表から見てみると、新しいものを積極的に導入するイノベーターやアーリーアダプターであり、保守的で伝統的なモノしか採用しないレイトマジョリティやラガードとは明らかに違うタイプだ。
短期的な売買で利ザヤを稼ぐことが主な目的なので、ブームの時期にとにかく買っておき、ブームが終焉を迎える前に売りさばくのだ。
つまり、彼らにとってのNFTアートはギャンブル的な要素を含んだゲームであり、そこにはアートに対する「愛」はないのかもしれない。
過去のコラムで何度も申し上げているのが、作品を長期的に作家の成長を支えるための投資として買うことはアートのマーケット拡大に役立つのだが、オークションでの値上りを狙って売買する投機行動は個人の懐を豊かにすることはできても、アートシーンが飛躍する一助になることはない。
NFTアートがその典型的な例であり、ブームとして盛り上がり始めたときに買うようなイノベーターやアーリーアダプター層の一部が得をすることになる。
自宅で飾って楽しむことができないNFTアートは、コレクターズアイテムとして売買による旨味しかないため、そうなるのはやむを得ないことなのかもしれない。
NFTが個人と個人とを直接つなげる
一方、NFTで市場性が高いのはアートだけではない。希少性の高いゲーム、それから音楽だ。マーケット規模からするとアートはゲームや音楽より小さいが希少性では高いということになるだろう。
有名なクリエイターによるユニークなゲーム、知る人ぞ知るミュージシャンがCD化しなかった作品など、それらのNFT を個人的に所有することが増えるだろう。
つまりNFTによってマーケットはより直接個人に向かうことになるのだ。
NFTはコレクションアイテムとして、制作者であるクリエイターと購入者をそのまま結びつける原動力なるだろう。
中間業者がなくてもプラットフォームの中で販売が成り立つことが、NFTの特徴だからだ。
NFTアーティストの未来
本来であれば、作家の価値=NFTの価値という関係にあるべきだし、そうなることがマーケットでは求められる。
しかしながら、現時点では作家の価値が高くないにも関わらず、NFTだけが価格が上がっているのは明らかにバブルであるし、必ずどこかでそのバブルは崩壊するだろうと思われる。
さらには、NFTアートが作家の価値向上の一助となるメリットがないと現在のブームが長く続かないだろう。
つまりコレクターのサポートが可能な仕組みが必要だということだ。
例えば、セカンダリー販売されたときの還元金はもちろんのこと、購入したコレクターが作品の使用許諾権を得ることで販促に繋げることができると作家にとってもコレクターにとってもプラスになるだろう。
また、NFTはデジタルアートを作るクリエイターにとってどんどん有利になっていくだろう。
現在はファインアートの作家のうち、PCやスマホなどのデバイスを使って制作している人は全体の3%程度だろうが、今後は間違いなその数字が5%、10%と増えていくことになる。
その一方で世界中のデジタルクリエイターがNFTアートを作り始めることで競争は激化することになる。
ペンタブで漫画やイラストを作っているクリエイターはすべてNFTアーティストとなりえるので、もはやファインアート、イラスト、デザインの垣根などなくなるだろう。
そうなると、デジタル映像アーティストにとっては千載一遇のチャンスであり、今後彼らが作る動画がどんどんビジネスにつながる日も遠くないだろう。
さて、タグボートも先月最初にNFTアートを販売し、計25点が早い段階で完売した。
価格は3-5万円とリーズナブルな価格に設定することで、投機ではなく投資として長期的にアーティストを応援する形で販売したのだ。
このような初期のトレンドに敏感に感じる方は早い段階で購入されたと思われる。
まだこの時期は焦らずに、着実に伸びていく新しい市場にチャレンジすることをオススメしたいと思う。
NFTアートに関するタグボートの過去の記事は以下からご覧になれます。