NFTアートの美術的な価値はほとんどが「ゴミ」である
NFTアートの販売プラットフォームであるOpen SeaやNifty Gatewayのウェブサイトを見てみると、そこで掲載されているアートの多くがデジタルで描かれたイラストであり、いわゆる我々が取り扱っている現代アートとは違うことが分かる。
パソコン上で描いたイラストには現代アート的な要素がない。つまり、作品としてコレクション対象となるような表現は殆ど見つけることはできないと言っていいだろう。
NFTのプラットフォームにあるアートは一般的には欧米を源流とする現代アートの文脈とは全く別の世界にあるのだ。
別にNFTアートに創造性がないというわけではなくて、アートの専門家やコレクターから見ると、NFTで作られているほとんどの作品が現代アートの文脈からの美術的な評価が「ほぼゼロ」だというだけだ。
日本画の巨匠の作品が、欧米を主流とする現代アートの文脈から外れることから、オークションなどのセカンダリー市場では評価対象外となることと同じだ。
しかし、なぜそのようなNFTアートに現在高い価格がついているのか、その意味について検証してみよう。
1.なぜNFTアートが値上がりしているのか?
NFTアートは、代替できない唯一無二の作品として個別に相場を持つことができることが特徴であるが、そのほとんどが仮想通貨でいうところの「草コイン」のような位置づけとなる。
草コインとはビットコインやイーサリアムなどの主要仮想通貨に比べると時価総額が低く、投機性の高い通貨を指す。
実際に価格が低い通貨となるので、大量に保有して価格が上昇したときに大きな利益を得ることのみがメリットの仮想通貨である。
草コインはギャンブルとしてのゲーム的な位置づけでしかなく、それをメインの取引としてやるというよりも、あくまで万馬券が当たればラッキーなのでとりあえず買っておくか、という意味合いで買う人が多い。
そういう意味ではほとんどのNFTアートは草コインと近いだろう。
さらにNFTアートは、自己売買で値段を釣り上げることが可能だ。
個人がイーサリアムの仮想通貨アカウントを複数用意し、作品のオークション値をつり上げるように取引していけば、そのNFTの値段があがったように見せかけることができるのだ。
そこでうっかりつり上げられたアートを他人が購入してババをつかんでくれれば、高値で売りぬけることも可能だということだ。
NFTアートの価格上昇の裏には自己売買がかなり含まれるのではないかと業界内での噂もあるくらいである。
また、NFTアートを作るのには特に難しい技術もいらず、iPadで作ることもできて簡単であるというのもNFTアートのブームの原因にもなっている。
クラウドソーシングを使って外部にデジタルのイラストを依頼し、それをNFTアートとして売り出すことは容易だからだ。
さらにそれを自己売買で値段をつり上げ、カモとなる人が買ってくれたら高値で売り抜けることもできるのだ。
こうして大量のNFTアートが供給されているのが現状かもしれないし、且つ多くのNFTアートの価格が上がっているのも、自己売買による見せかけかもしれないのだ。
ところで、Beepleの作品がクリスティーズで75億円で落札されたが、これはどうだろうか?
ひとつだけ言えるのは、Beepleの作品はバンクシーのように現代社会の風刺やブラックユーモアを元にアートの文脈を抑えており、それが他のNFTアートとの大きな違いである。
Beepleが仮想通貨界隈やお金にまみれたオークションの仕組みに対する風刺や抗議活動の意味合いを内包している意味合いが重要であり、バンクシーが2018年10月サザビーズのオークションで落札作品をシュレッダーにかけたパフォーマンスに近いのかもしれない。
その後、シュレッダーにかけられた作品で人気が膨らみ、逆にバンクシーの価値が高騰しているのも一つの風刺だとも言えよう。
いずれにしてもNFTは既存の現代アートを超えるものとはなりえず、あくまでもブームによって一定の市場を形成するであろうが、そのブームは長くは続かずに終わりを告げることになるだろう。
ブームによる市場はNFTのギャンブル市場に近いものであり、現代アートの市場とは関係ないまったく独自のものとして形成されることだろう。
現代アート市場と共存していくにはギャンブル以外の要素をもたせることが必須となるのだ。
2.NFTにとって重要なのは使用許諾権
NFTアートは、上述のようなギャンブル性のあるものを買ったり個人的な趣味嗜好でデジタルアートを買うという目的があるのだが、それだけでなくアートの画像の使用許諾権が買えるという目的もある。
つまり、使用許諾の権利が付いているNFTアートは作品画像の商業利用が可能なのだ。
例えば、印刷したポスターとして展覧会をしたり、Tシャツやトートバッグにプリントして販売するといった利用方法を目的とした権利が手に入るのだ。
アートコレクターであれば、作品の使用許諾権が付いているものを購入するのはお得だろう。
Tシャツやトートバッグを販売して話題づくりをしたり、ポスターを使ってSNSでの拡散ができるのでアーティスト個人のプロモーションを支援することができるのだ。
つまり購入者がアーティストの販促を手伝うことで作品の価値を上げることができるのはコレクターとしてのパトロン的な意味があると言えよう。
例えば、もしジャスティン・ビーバーが購入したNFTアートの画像のTシャツを彼自身が年間通して着た写真をInstagramにアップすれば、そのNFTアートの価値はとんでもなく高騰するかもしれないのだ。
このように、NFTアートは使用許諾権を有効活用することで価値を上げることが可能であるのだが、残念ながら現在はそのメリットについては言及している人は少ない。
次回はタグボートがこのNFTブームの中でどのような次の一手を考えていくかについてお話をしたいと思う。
※今回のコラムはビットコイン&ブロックチェーン研究所代表で、日本デジタルマネー協会理事でもある大石哲之氏からのアドバイスを元に執筆している。大石哲之氏は現代アートコレクターでもあり、コレクター歴は12年、保有作品は500点を超えている。