今回のコラムでは止まらないアートの大衆化に対して、我々は何をしなければならないのか、ということを考えていきたい。
アートの大衆化が進んでいることは前回のコラムアートの未来 - その3 –の中で述べさせて頂いた。
さて、「アートの大衆化が進んでいると言っているが、海外のオークションでの落札価格はどんどん上がっているではないか」という意見もあるかもしれない。
確かに高騰するアートは増えているのだが、それは一般のアーティストが目標とするようなスター作家の作品のことである。
これはプロスポーツの中でスター選手の年俸が高騰していることと同じであり、そのスター選手に憧れる一般層がどんどん厚くなるのと同じような傾向がアート市場にもありえる。
つまり、スターの輩出はマーケットの拡大に寄与するものであって、高級化だけを進めているのものではないのだ。
今後、作家が増えるとそれに応じて作品数も爆発的に増加していくが、そうなると展示するスペースには限界があるためアートのネット販売(EC)が広がることは間違いない。
つまり売りたい人が増えれば、行き場のないアート作品を売るためのマーケットの掘り起こしが始まるということだ。
この傾向はすでに始まっており、最近のアート関連のスタートアップ企業の殆どがアートのECを手がける傾向にある。
そうなると、これからは雨後のタケノコのようにアートのECサイトは増えていくだろう。
最初の段階ではプライマリー作品がメインであろうが、そこからセカンダリー作品の取り扱いにまでECが広がっていくことが予想される。
買うほうから見ると購入の選択肢は増えていくばかりだ。
さて、ネット販売での競争の激化が始まると優先すべき施策は品ぞろえであり、ユーザビリティはその次となる。
顧客の欲しがる作品があるかどうかを最重要課題として考えるべきであり、使い勝手のよいサイト作りに時間をかけていると置いてけぼりをくらう業者も出るだろう。
もちろん作品の数だけを競うのではなく、顧客がほしいと思うような質の高い作品、将来的な価値が期待できる作品が幅広く揃えられるか、ということが重要となる。
アート作品は工業製品とは違って一点もので代替が効かないので、他のECでは買えないということこそが強みとなるのだ。
このように作品の数が増えると、ECで見せるだけではアーティストの要望はおさまらないし、顧客もホンモノを見たいと思うだろう。
品ぞろえはもちろんのことだが、その作品を実際のスペースで展示した作品を見に来る参加者数も増えていくだろう。
これからは実物を鑑賞できることを前提としてECサイトを作っていかないと、いずれ機能しなくなっていくことが予想される。
アートのEC販売は、ホンモノを見て買うことの代替手段であり、補助的な役割でしかないことを認識しなければならない。
ということは自動的に作品と購入者とのマッチングを目指すようなマーケットプレイス型のECはアートには不向きであり、成功しないということだ。
さらには、アーティストの数が増えてくると、業者による優秀なアーティストの争奪戦も激化するだろう。
そこではECの強みと実際の展示の両方を強みとするところが、大きなシェアを獲得していく。
つまり売れるアーティストは、ECだけでは満足せず、顧客に直接見てもらえる業者を選ぶ傾向にあることが予想されるからだ。
増え続けアーティストと大衆化する作品の販売の受け皿として、どこが残っていくかは分からないが、顧客からはECでも実際のスペースのどちらからでも買えるようなマルチメディアとしての機能が求められるだろうし、それに対応した規模が必要となってくることは間違いない。
今後のアートの未来は新しい業者がこれまでの業者に取って替わることになるだろう。
さて次に、アートの大衆化によってどのように、それを評価したり価値を付けることが必要になっていくのかをアートの未来 - その5 - の中で述べていきたいと思う。