前回のコラムではアートの価格がどのように決定されているのかについての序盤を書いた。
一般的な商品の価格の決定方法を例にとって、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(市場・顧客)という3C分析の中でどのようにアートの価格が決まるかを考えてみた。
さて、前回に引き続き、Customer(市場、顧客)の観点、つまり顧客がいくらなら喜んでお金を払うかという顧客視点の価値に絞り込んで今回は深堀りしたいと思う。
アートのマーケティング価格の算出方法については、「顧客利便性」に強く影響を受けるといって間違いない。
従い、作品価格を設定するときにも、購入する顧客のメリットをきちんと考えていかなければならない。
しかしながら、よく考えてみるとアートとはそもそも使用価値としての利便性が少ない商品である。
インテリアとして壁に飾るくらいしかアートの使用価値はないように思われるのだが、それでも高い価格が付くのはどういった顧客利便性がアートにはあるのだろうか。
顧客の利便性:将来の売買益
アートを買う段階ではその作品が将来的にどこまで価値が上がるのかは誰も分からない。
しかしながら、購入者はだれでもその価値が上がってほしいと願うものだ。
つまり、アート作品の顧客利便性とは、顧客が買った作品をリセールするときの売買益というものに大きく影響される。
アートを売る側としては作品そのものが持つ価値(前編のコスト・プラス法)だけではなく、将来的な顧客が得られる売買益の両方を足したものをトータルの顧客利便性として価格設定することが望ましい。
逆に、将来的な売買がまったく期待できない作品に高い価格を付けることは難しいのだ。
数万円の作品であれば、将来の売買益がマイナスになったとしても買う人はいるだろう。しかし、それなりの作品価格になればいくら気に入ったとしても将来の売買益がマイナスであれば買う人は少ないだろう。
それがアートという商品の持つ特性であるし、その部分をイメージして作品価格を設定する必要があるのだ。
逆にいえば、ギャラリーが作品の将来的な価値の向上のために一生懸命にプロモーションしているという事実が今の価格を決めているとも言えよう。
アートには自動的に価格が上がる仕組みがないので、ギャラリーは作品を販売した後も価格を上げる努力をし続けなければ将来的に上がることはない。
プロモーションすることによって価値を上げるものだということを購入者側が理解してなければ上手にアートを買うことは難しい。
作品の価格は作品の価値と同一であると勘違いして買ってしまってる人がほとんどなのだ。
商品やサービスの価格の中でも特にアートは上記のような将来的な売買益を含んだ価格で設定されるべきである。
多くの人に知ってもらうためのメディアの活用、作品の魅力を伝える努力をギャラリー側がしなければ、将来的な売買益が望めないので他との競争に負けることになるだろう。
どれだけ多くの人に作品を見せるかは重要であり、その見せ方の質と量が価格上昇に寄与することは間違いない。
アーティストへの間接的なサポート
購入した作品のアーティストを応援することで、コレクターが作品の価値を上げることに貢献することは可能だ。
例えば、コレクターが作品の魅力をSNSで発信したり他のコレクターに紹介するなど、アーティストを応援する方法はいくらでもある。
アートを買うと通常は作品金額の約半分がアーティストの手に渡るので、もちろん作品を買うことだけでアーティストのサポーターとしての立場になりえるのだ。
アーティストは作品が売れないと食べていけないので、そのアーティストを応援するパトロン的な意味合いもある。
つまり、作品の価値を購入者が間接的にサポートすることができるといってもよいだろう。
これは鑑賞するだけでは得られない購入者のメリットである。
将来的な売買益を見込んで作品を買う場合に、アーティストをサポートできる手段があるかないかは重要なことだ。
今後はギャラリーだけがアーティストをプロモーションするだけではなく、購入するコレクターも間接的にかかわる環境が整備されていくし、それが当たり前になっていくだろう。
そのほうがアーティストのプロモーションがより強化され、市場が活性化することとなる。
上記のように、アートの価格設定というのはあくまで顧客の利便性が重要であり、そこに将来的な売買益をもたらせることをギャラリー側がイメージさせるべきであるし、購入者側もそれがどこまで出来るかの可能性を感じなければ喜んで買うことはない。
顧客はギャラリーの言い分をそのまま聞くだけではなく、展示やオンラインなどでどこまでプロモーションに力を入れているかを見てその価値を判断していく必要がある。
アートの価格で重要なのは「今」ではなく、「将来」の価値をどう作り上げるかなのだ。