今回のコラムではアートの価格がどのように決定されているのかについて2週にわたって考えていきたい。
さて、一般的な商品の価格がどのように決定されるかの例を見てみよう。
以下の通り、3C分析に合わせて考えていくと分かりやすい。
3Cとは、Company(自社)、Competitor(競合)、Customer(市場・顧客)という3つの「C」について分析する方法であり、企業はそれぞれの価格決定方法のメリットを組み合わせながら最適な価格を決めていると考えられる。
・コスト・プラス方法
Company(自社)を起点とした価格決定とは、実際にかかるコストに利益を加えたコスト・プラス方法である。
つまり、製造コスト、販売管理コストに利益を上乗せして価格を設定する方法と考えてよいだろう。
一般的にメーカー的な思考での価格決定手段であり、マークアップ方式ともよばれる。
例えば、円安で原材料価格や人件費が高騰した場合にその分だけ販売価格も上乗せをするという考え方だ。
これをアートにあてはめてみると、最低限必要な原材料費、製作費と付加価値などに利益を上乗せするのだが、そうすると付加価値の部分がアートの価格の大部分を占めてしまう。
その付加価値部分の算定方法がこのコスト・プラス方式では説明しにくいのだ。
あくまでコスト・プラス方式は原価を下回って赤字にならない目安程度にとどめるのがアートの価格を決めるのによいだろう。
・競合価格追随法
Competitor(競合)、つまりすでに市場にある競合商品を基準に、その上下の価格を設定する方法が競合価格追随法である。
例えば、大きなシェアをもつ企業の価格をひとつの基準として値付けすることがそれにあたる。
ラーメンなら1杯800円前後、清涼飲料水がペットボトル150円前後といった目安になる価格水準に基づいて設定するということだ。
アートの場合は、例えば大学を卒業してからアーティストとしてのキャリア年数や他のギャラリーでの価格を元にして算定するのだ。
一般の市場で通用している価格を目安とするため価格の設定がやりやすく、多くのアーティストは自分と同等だと考えているライバル作家の価格を横にらみしながら決めることも多いようだ。
ギャラリーも自社で販売しているアーティストの人気度合いやキャリア年数を勘案しながら作品価格を決めるだろうし、他のギャラリーの販売価格も参考にするだろう。
この競合価格追随法で値付けをする場合、自分の作品が他の作家と差別化ができれば、他よりも高く価格設定できることになる。
・マーケティング価格
Customer(市場・顧客)の意見や情報を元に作る価格である。
つまり、提供する製品やサービスに対し顧客はいくらまでなら喜んで払ってくれるかという基準で最適価格を設定するということだ。
アートの場合、価格水準が上がれば上がるほどこのマーケティング価格で値段が決まっていくのだが、オークションのようなセカンダリー市場では以下のような需要と供給の交わる部分で落札価格が決まるとされている。
つまり人気があれば価格が高くなるという分かりやすい仕組みだ。
しかしながら、オークションの価格は二人の顧客がその作品を欲しくてそのためにはお金に糸目をつけずに競争するととんでもない高騰値で落札されることがある。
これは決して正しい価格であるとは言いにくい。
なぜなら需要と供給で価格が決定されるのは、経済学の観点からはモデルとしている市場が完全市場で成り立っているからだ。
完全市場というのは商品の供給が滞りなく行われ、商品の情報は買い手も売り手も同じように持っていることが条件となっている。
実際のオークションの現場では、人気作品の供給量は圧倒的に少なく、情報量についても買い手と売り手の双方に大きな差があることが多い。
そこで顧客がいくらなら払うのかというアートのマーケティング価格をどのように算出するかというと、顧客満足度つまり「顧客利便性」にアートは強く影響を受けるという観点から考えると分かりやすい。
しかしながら一般的に顧客の利便性について考えているギャラリーは決して多くない。
どちらかというと、顧客利便性よりも作品の魅力について語るギャラリーのほうが圧倒的に多数であろう。
ギャラリーが作品に惚れこんでしまうのは分かるが、それよりも作品を買おうとする顧客にとって何がメリットかということを冷静に考えることも価格設定では必要だ。
まずは作品の金額と同等またはそれ以上の価値をギャラリーが顧客に提供可能なのかということについて考えたい。
作品にはコンセプトの面白さや技術の高さといった評価が付加価値であると考えられるが、そうすると数億円もする作品が持つ顧客の利便性とはいったい何かという説明が難しくなる。
アートは道具としての使用価値が低いので、付加価値の算定方法が単純に「人気度」のほうに大きく傾くきがちだが、人気があるだけでは顧客の利便性やメリットが高いことを説明できない。
そこで次週は顧客にとっての利便性をアートはどのように価格に転嫁するのかについて分析して説明したいと思う。