陶芸作品を歴史に刻む
陶芸という技法を使う場合、皿や椀などの陶器を作ることが一般的である。
陶器は使用されることを目的としているので、壊れたり朽ちたりする運命にある。
一方で、芸術品としての陶芸作品は「残す」ことを目的としている。従い、その時々の歴史の中において足跡を残すことが意図されているのだ。
さて、原始時代の遺物として「土器」が発見された時のことを想像してみよう。
そこには単純に機能としての器(うつわ)が見つかっただけではなく、時代の文化や風習を背景とした歴史が同時に刻まれていたのだ。
毛塚友梨の作品も同様に、美術の歴史に名が刻まれることを目的として作られている。
さらに彼女の場合、陶芸でアートを作るだけではなく、空間全体を作品として体験させるインスタレーションにまで昇華させているのが他の陶芸作家と違うところなのだ。
陶芸と美術の家で育つ
毛塚友梨は陶芸家である父親の影響を強く受けている。ずっと隣で父親が作業していたのを見ていた蓄積が今の作品に繋がっていることは間違いない。
小さいころの毛塚にとって、実家の工房で粘土をこねてモノを作ることが当たり前の遊びであった。
また、栃木県の益子焼の工房であったことから、砂気の多いゴツゴツとした土の質感がある粘土に慣れ親しんでいたようだ。
今でも毛塚が得意とする陶芸の原始的な作り方である「手びねり成型」はその時から知らず知らずのうちに学んでいたのだろう。
手びねり成型とは轆轤(ろくろ)を回すのではなく、粘土をひも状にコロコロと転がして、上へ上へと積み上げ、指先で粘土を伸ばしながら形を整えていく技法のことである。
幼少期に遊びながら身に付いたものづくりの楽しさが今でも続いているのだ。
また、粘土遊びだけはなく、油画専攻で美術の教師であった母親の影響もあり、毛塚は絵も得意でずっと描いていたようだ。
将来は画家になることが当時の夢だったという。
しかしながら、手塚が美大進学を決めて本格的に絵画を学び始めたところ、平面に描く表現があまりしっくりこないため、やはり小さいころからの立体でものを作ることが自分に最も合うことに気付き、そこに落ち着いたと言う。
まさに「三つ子の魂百までも」である。
多くの子供が粘土遊びを幼少期に体験するのだが、これを仕事としてずっと続けていける才能が開花するかどうかは家庭のもつ環境が影響するのかもしれない。
原始的な手法で現代を作る
現在は平面作品は、絵画だけではなく、写真やデジタル、さらにはAIによる自動制作などテクノロジーの進化によって作られている。
立体作品も同様に、AIに制作させたデータを3Dプリンターで出力して作ることは難しいことではない。
そういう時代だからこそ、毛塚の作品の作り方はもっとも原始的な制法である手びねりに敢えてこだわっている。
いつの日になっても手に沁みついた技術は変わることはないからだ。
ただし、作る作品のモチーフは今を生きる現代のものだ。
たとえば、生活用品、室内設備など、「我々がその時代にはこういうものを使っていた」ということが、後の歴史で作品が発掘されたときに、未来の人間が分かるよう仕込んでいるかのようだ。
さて、毛塚友梨の作る作品について具体的に説明をしよう。
また、以下の画像の作品であるが、「蛇口」の部分は毛塚が実物を購入して分解・分析した後で作品を作っている。
ホンモノを触ってみて、それを元に実物大に作っていくのが毛塚流だ。
粘土をひも状にしたものを成型した後、小さいころから毛塚が好きだった水色が出るように釉薬として銅釉を使っている。さらに素地に黒化粧で模様をつけているが、これも毛塚が興味を持っていたペルシャ陶器の影響を受けている。
陶磁器の表面に釉薬を塗り、電気釜に入れて焼くことが多いのだが、一方で、下の画像のように、作品前面にある蛇口とカバンの作品では、成型した作品を藁でくるんで焼くという原始的な手法を使っている。
藁で焼くことで、釉薬がなくても独特の緋色の模様が作られるからだ。
また、下にある手袋の作品については、ひも状の粘と粘土との間を伸ばさないことで、あえて手作りの形跡を残すようにしている。
これは作品としての「味」を残すだけでなく、焼いた後の独特の土っぽさの雰囲気を作るためでもある。
また、代表的な作品として、毛塚が初心者にも買いやすいように作った「中身たい焼き」という作品がある。
もちろん毛塚の作るたい焼きは陶芸で作っているので中にあんこが入っていない。
通常あんこが詰まっている部分が空洞になっているのだ。
たい焼きは空洞を「掛け花」として使ってもらえるように作っている。このたい焼きの本体である「中身」をどうするかは購入した顧客に委ねているのだ。
お花を生けることによって、最終的な形は購入した顧客が作って完成するという仕掛けだ。
このように、陶芸作品に様々な意味を与えていくのが毛塚流である。
陶芸という技法を使って当たり前のものを作るのではなく、面白いもの、違和感があるものにチャンレジしている。
陶芸の革命児が作り出す作品は、「土器」のように未来の美術の歴史の中で発見されていくのかもしれない。
毛塚友梨| Yuri Kezuka |
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