毛塚友梨は陶芸でインスタレーション作品など、コンセプトを持った陶器の作品を制作しています。
作品のモチーフは生活用品、室内設備など。人間の精神的な問題提起、人間の感情の動き、社会的通念への懐疑・皮肉、哲学的考察などをコンセプトとしています。
土器が、古代の思想や生活などの事象を反映するものならば、自分の作品を現代の事象を反映した土器だと捉え、原始的な素材をつかい、現代的なものを作ることにより、現在を生きる人間の営みを表現しています。
毛塚友梨| Yuri Kezuka |
ー 陶芸作品を制作し始めたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
2,3歳ごろなど、かなり幼い頃からだと思います。私の父は陶芸家で、実家は父の作品(食器)を売る店と陶芸教室を営んでいました。その為、かなり幼い頃から、私の遊び道具は粘土や陶芸関係の道具でした。
小学生に上がるくらいになると、粘土の塊をくれて、父が扱い方を教えてくれました。私は、とても内気で無口な子供でした。人と話をするのは苦手だけど、絵を描いたり、物を作ることは得意でした。私は好んで小さい頃から作品を作っていたと思います。今も幼い頃に作った陶器と記憶が共に残っています。
ーアーティストを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?きっかけはなんですか?
私の小学生の頃の夢は「絵描きさん」だったと思います。漠然としていましたが、アーティストになりたいと、幼少の頃から思っていました。
自分の内面にある激しい感情や、生きている中で感じている身近な感動を自分の中だけで留めておくことが出来なかったので、何かに出力する必要がありました。特に10代前半までは、自分の考えや気持ちを共感してくれる人が少なくて孤独を感じることが多かったので、誰かに共感して欲しかったのかも知れません。
しかし、高校の時に美術科に入学し、同じような仲間がいるという事に凄く勇気を貰いました。自分よりももっと自分の興味に対して貪欲な友人達に囲まれて、自分も自分自身の世界をもっと深めていきたいと思うようなりました。
最初は絵描きになりたかった私が陶芸家になった理由は、大学受験期に絵の才能が自分には無いと思ったからです。何かを表現しようとしたときに、平面での表現が自分にはあまりしっくりきませんでした。立体の方が、自分の感覚に直結して表現できました。
陶芸という素材を選んだのは、心から陶芸の素材が好きだったからだです。土が割れた表情や、錆付いた色合いなど、自然現象の様な作品を生み出せるのが陶芸の醍醐味なのですが、それを私も作り出したいと思い、陶芸を選びました。
ー作風が確立するまでの経緯を教えてください。
私は大学の卒業制作で、実寸大の陶器の自転車を作りました。その作品にはコンセプトがありましたが、その時からコンセプトを表現するの為に身近にある工業製品を陶器で制作するスタイルが始まり、今も続いています。
それから、次に何を作るのかしばらく考えましたが、次はシャワールームのインスタレーションを作りました。続いて、蛇口やバケツなどの水周りのモチーフを主に作りながら、徐々にそのスタイルが確立されて行きました。
ー作品を発表し始めたのは何時頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
私がアーティストとして活動し始めたのは2010年です。私は大学卒業後、アメリカの大学院に留学しようと思って、本気で英語の勉強をしていましたが、奨学金が取れなかったことで留学を諦めることになりました。その時は、夢破れた後という事もあって、将来についてとても悩んでいたと思います。
悩んだ挙句、次の目標を作るきっかけとして、とりあえずアートコンペに出してみようと決めて、複数のコンペに応募・展示したことからアーティスト活動が始まりました。
ーアーティストステートメントについて語ってください。
私は父が陶芸家だったことから、幼いころから父のアトリエで粘土遊びを日常的にしていました。大学では、工芸科に進学し、陶芸を学びました。大学の陶芸専攻の課題に従い、主に電動ろくろを使って器を作っていましたが、器では自分の表現したいものが作れないことに気づきました。
それ以来、私は陶芸でインスタレーション作品など、コンセプトを持った陶器の作品を制作しています。作品のモチーフは生活用品、室内設備などです。主に家庭内や個人間などの小さい単位での問題の提起、社会的通念への懐疑などをコンセプトとしています。
現代陶芸は作品の意図や制作された背景(文脈)よりも、自律性と形式的要素(色彩・形態など)を重視する傾向があると思いますが、私は形式的要素も大切であると同時に、コンセプトや文脈も大切であると考えています。
形式的要素については、限定した素材と深く関わり、素材の質感などの特性を表現の中に取り入れる事を試みています。
私は陶芸の技法の中で、最も原始的な技法の一つである『紐づくり』でほとんどの作品を作っています。これは、1万年以上前の遺跡などから発見された土器でも使われている技法です。粘土を紐状に伸ばし、それを少しづつ積み重ねていきます。普通はひもを積み上げた模様を消してしまいますが、私はそれを意図的に残して、渦の様な模様にしています。粘土を積み上げた痕跡を残したままにすることで、個人や過去の人間が陶芸と共に歩んできた歴史の積み重ねを暗示しています。
現在私たちの生きる時代は、デジタル技術の発達により、インターネット、データ社会など非物質的な世界が急激に拡大しています。それに比べ、私の技法は非常に原始的です。
しかし、私は色々なものがデジタルに置き換わっても、人間が物質的な存在である限り、物質に対する感受性、欲求は無くならないと考えています。現在、仕事がほとんどPCなどで行われるようになった多くの人達が、自分の手で物を形作りたい欲求を持ち、陶芸教室に陶芸を学びにやってきます。手で形作ることは古代から続いてきた人間の営みであり、陶芸は人間が関わってきた中で最も古い素材の一つです。その陶芸で作品を作ることは私にとって意味深いことです。
土器が、古代の思想や生活などの事象を反映するものならば、私の作品は現代の事象を反映した土器です。私は、原始的な素材をつかい、現代的なものを作ることにより、現在を生きる人間の営みを表現しています。
ー作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
私の作品は陶土で作られています。粘土をひも状にして組み上げていく「紐づくり」で大部分の作品が作られています。作品に使用する釉薬によって使う粘土が異なります。粘土と釉薬が同じ組み合わせでなければ、違う色・質感になってしまうからです。
私がよく作っている青い作品では、作品を約2週間かけてゆっくりと乾燥させた後、黒い粘土を泥状にした化粧泥を吹きかけます。それから、素焼きをします。素焼から出したら、酸化コバルトを吹きかけて、釉薬をかけます。それを酸化焼成で本焼します。焼きあがってから、組み立てや、吊り金具が必要な作品は接着します。そして、完成です。陶芸の技法的には、特に難しい事はやっていません。
①紐づくりで成形
②作品を約2週間かけてゆっくりと乾燥
③黒い粘土を泥状にした化粧泥を吹きかける
④素焼き(750℃)
⑤酸化コバルトを吹きかける
⑥釉薬をかける
⑦本焼(1220℃、酸化焼成)
⑧必要に応じて接着
⑨完成
ー作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
制作自体はとても楽しいので、困難と感じることはほとんどありません。あえて言うならば、何日もかけて作った一点物の作品を窯で失敗してしまった場合、窯に入っていた作品全部がゴミ箱行きになってしまうことだと思います。そのような事が起きない様に、成形や乾燥にかかる時間のスケジュール管理を厳しくするよう心がけています。
ー今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
今後は、今までやってきた制作を更に深めていけるような事が出来ればいいと思っています。それは技術的にでもありますし、理論的にでもあります。作家を初めて11年目となり、熟れてきた感じがすることがありますが、同じことをただ反復することなく、新しい表現や活動の在り方を模索していこうと思っています。
略歴
1984 栃木県栃木市に生まれる
2003 作新学院高等学校 卒業
2009 東京藝術大学美術学部工芸科陶芸専攻 卒業
受賞暦など
2011 京畿世界陶磁ビエンナーレ 入選
2011 YOUNG ARTISTS JAPAN VOL.4 小暮ともこ賞、石井信賞
2012 2nd International Ceramic Triennal UNICUM 2012 入選
個展
2012 -陶 蒼い心- 毛塚友梨展(LIXIL ギャラリー ガレリアセラミカ 東京)
2012 毛塚友梨 -CONTAINTS- (Lower Akihabara. 東京)
2012 毛塚友梨 個展 「3年間」(EARTH+GALLERY 東京)
2015 現代陶芸 毛塚友梨作陶展 (東武宇都宮百貨店 栃木)
2018「鏡」(Lower Akihabara. 東京)
2020 10 years(ログズビル1F 東京)
2021「10+1years」(BLOCK HOUSE4F)
主なグループ展
2009 Landscape展(Pepper’s Gallery、東京)
2010 SICF11(スパイラル、東京)
2010 第 19 回 SOSABEOL 国際芸術シンポジウム(ピョンテク、韓国)
2011 土土土工展(TURNER GALLERY 1F、東京)
2011 Blijven 展 (G671gallery、東京)
2011 京畿世界陶磁ビエンナーレ(ワールドセラミックセンター、イチョン、韓国)
2011 YOUNG ARTISTS JAPAN VOL.4(ラフォーレミュージアム六本木、東京)
2012 SICF13(スパイラル、東京)
2012 Young Art Taipei(台湾)
2012 2nd International Ceramic Triennal UNICUM 2012(マリボル、スロベニア)
2014 青島国際陶芸シンポジウムにて展示(青島、中国)
2016 第1回time crossing展-陶造形11人展(壷中居、東京)
2017 第2回time crossing展-陶造形10人展(壷中居、東京)
2018 第3回time crossing展(壷中居、東京)
2018 INDIVISUALISM / DIVIDUALISM展(tmh. & L’INTERIEUR、東京)
2019 ONE ART Taipei(The Sherwood Taipei、台北、中華民国)
2019 Art Central(CENTRAL HARBORFRONT、香港、中国)
2019 time crossing 4th exhibition(壺中居、東京)
2020 Art Fair Philippines 2020(The Link Ayala Center Makati、マニラ、フィリピン)
2020 GARDEN展(西武百貨店渋谷店 美術画廊、東京)