世界のアートフェアを語るうえで、スイスで毎年6月に開催される「アートバーゼル」を知らない人はいないだろう。
アートバーゼルは世界最大級のアート見本市であり、アート市場の象徴ともいえる存在だ。
さらに、今年はスイスのアートバーゼルの規模に近い「Frieze London」がロンドンで、「Art Basel Paris」がパリで、それぞれ1週間の差を置いて10月に開催された。
両アートフェアが連続して開催されることで、周辺には若手ギャラリーが主催するサテライトフェアも数多く展開され、都市全体が一大アートフェスの様相を呈した。
今回は、それらを訪問し、欧州アート市場のダイナミズムを肌で感じ取ってきた。
世界のアート基準は歴史的に欧州で作られ、その基準によって巨大なマーケットである米国で大きく展開される。
アート市場の中心地がニューヨークにあるのは事実だが、その背後には、数多くの大手ギャラリーが集積し、多くのアーティストが居住している事情がある。
しかし、ニューヨークが新たなアートのトレンドを生み出す一方で、その評価の基軸は今も欧州にあるのだ。
欧州には、数世紀にわたって蓄積されてきた圧倒的な質と量の美術品があり、米国におけるアートの歴史は戦後のものに限られるため、その差は比較にならない。
ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタなど、世界中の批評家が注目する展覧会が欧州で開催されるのも、欧州の美術的地位が根強く存続しているからにほかならない。
今もなお、欧州で評価されたアートが米国をはじめとする市場で価値を増していくという構図は変わっていない。
そして、その象徴ともいえるイベントが「アートバーゼル」であり、規模の上ではニューヨークやマイアミのフェアが大きくなっても、本場であるスイスのバーゼルが最大の評価軸として機能していくのは変わらないだろう。
今回訪れた「Frieze London」と「Art Basel Paris」の開催タイミングは、世界中のコレクターを惹きつける戦略的なものだと言える。
ロンドンのFriezeは、リージェントパーク内に特設されたテントで行われるため、訪れる観客も会場自体を非日常的な体験として楽しめる。
一方で、パリのArt Basel Parisは、1900年のパリ万博に建てられた歴史的建造物グラン・パレで行われ、圧倒的な荘厳さと威厳を感じさせる。
そのような異なる空間で同時期に似通った一流ギャラリーが集まり、独自の魅力を競い合う構図は、欧州ならではの洗練されたアート市場を象徴している。
Frieze Londonでは、現代アートの「Frieze」に加えて、「Frieze Masters」と呼ばれるフェアも同時に開催されている。
Frieze Mastersではミュージアムピースとして扱われるアンティークや歴史的な作品も多く並んでおり、セカンダリーマーケットとして充実している。
このように、現代アートと過去のアートの両市場が揃い、展示の仕方やエントランスまでも分けることで、アートに対する敬意が存分に表現されているのだ。
アンティーク、セカンダリー、プライマリーを分ける構造が、ヨーロッパがアートにおいて持つ厚みと奥行きを示しているといえよう。
欧州アート市場の本質とは、歴史的背景を基盤に、伝統を重んじつつも新しいアートに対しても柔軟な評価の場を提供する点にある。
ロンドンやパリといった都市のトップ級フェアが1週間違いで開催されることで、今後さらにコレクターたちの注目が集まり、欧州のアート市場が益々隆盛を極めていくことが予想される。
具体的に、訪問したそれぞれのアートフェアおよび、サテライトフェアの様子については、来週以降のコラムで詳しくレポートするので期待してほしい。
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さて、11月からタグボートでスタートする石川美奈子 個展「Resonance」は以下のスケジュールで開催されます。
2024年11月1日(金) ~ 11月22日(金)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日11月1日(金)は17:00オープンとなります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
http://tagboat.co.jp/minako_ishikawa_resonance/
石川美奈子個展開催を記念してオープニングレセプションを開催します!
石川美奈子個展アトリエインタビュー
石川美奈子個展アトリエインタビュー「創造の静かな避難所」
透明なアクリル板に数千本の極細い線を重ね、光の揺らぎや色の移ろいを美しく表現する石川美奈子。近年は、台湾・台南市にある奇美博物館での企画展示「Outside the Box」に選出されるなど、海外でも活躍の場を広げています。
tagboatでの個展開催に向けて石川さんのアトリエに訪問し、お話を伺いました。