先週、上海に訪問した。
目的は来年の現地での展覧会の打ち合わせと、開催中のアートフェアを見るためだ。
中国のアートの中心は以前は北京であったが、ここ最近で西岸地区にアート施設が集積したことによって、上海が中国のアートビジネスの中心に変わったことを改めて感じることとなった。
ART021、Westbund Art & Designという二つのアートフェアが開催されていたが、出展ギャラリーの質と規模の面で、Westbund が圧倒する形となった。
Westbund Art & Designが位置する上海市の西岸地区にはTANK(上海油罐芸術中心)という元燃油タンクを巨大な美術館へと転用したミュージアムや、アートフェアに合わせて11月にパリのポンピドゥーセンターが5年限定でこちらにミュージアムを開館することで、以前からあった龍美術館やYuz museumにより厚みを増すこととなった。
また、Gagosian、David Zwirnerなどのメガギャラリーは上記二つのアートフェアに同時出展しており、上海のアートマーケットに対する期待感を匂わせた。
上海のアートフェアは、香港のアートバーゼルやそのサテライトフェアであるアートセントラルと比較しても、美術館の展示まで含めるとでほぼ互角に近いところまで来ているだろう。
香港は740万人の人口で上海の3000万人と比較すると小さく、さらに香港はアートフェアの期間限定で取引をするハブ機能を発揮しているのに対し、上海は多数の美術館を構えることで年間を通して現地市場を作っていっていることがわかる。
また香港がデモ活動の激化で治安が不安定な中、上海がコレクターにとって資産価値のあるアートを買い物できる場所として海外から顧客が移っていくことも予想される。
とはいえ、美術品に対する関税も含め、香港の方が英語が普通に通じるなど、依然優位な場であることに変わりはない。
現在、上海にあるのは、Perrotin、Lisson、Admire Reich Gallery、オオタファインアーツなとがあるが、まだ数はさほど多くはない。
Gagosian 、David Zwirnerなどのメガギャラリーは、香港にスペースを設けても上海にまだ開設しないところを見ると、中国の顧客が著名アーティストの作品を香港で購入してそのまま保税倉庫に入れている可能性が高い。
中国に現地会社を設立しても、中国元の海外への持ち出しは禁止されているゆえ使い勝手はよいとは言えない。
外資にとっては優遇措置どころかデメリットも多く存在するため、まだメガギャラリーの上海への本格出展は拙速ということなのだろうか。
いずれにしても、中国の巨大マーケットを肌で感じるには、上海のアートフェアは非常に分かりやすく、多くの人で賑わっていたが、来ていた日本人のコレクターの数はアートバーゼル香港と比較すると格段に少ない印象だ。
また、言葉の壁もあるのか、出展している日本のギャラリーの数も香港と比べると限定的だ。
このような状況で、日本だけが他の海外のギャラリーより出遅れている感が強い中、タグボートとしてどのようにこの成長する巨大マーケットに挑んでいくのかについて次のコラムの中で紹介していきたい。
我々は、短期ではなく長期的な視点で取り組まないと結果は得られにくいこと、継続的に現地の言葉でプロモーションする必要を感じた。
日本の40倍と言われる中国のアートマーケットはいずれの日か規模において米国を抜く可能性があり、それまで指を加えて見てるようなことでは、日本のアーティストが食べていける環境を作れないだろう。