アート市場での民主主義とは
前回のコラムでは、アートの資本主義の持つ特徴と課題について書いた。
二回目となる今回は、アート市場における民主主義にフォーカスして考えてみよう。
一般的に、市場における民主主義とは、そこに参加する全員が平等に意見や選択を行い、それが市場の結果まで影響を与えることができるという原則に基づいている。
アート市場も同様にその原則があてはまるのであるが、以下にいくつか具体的な観点を挙げてみよう。
アートへのアクセス
民主主義の原則に基づけば、全ての人々がアートにアクセスできるべきである。
これは美術館やアートセンターが重要な役割を果たすところで、アートを楽しむ権利は全ての人々に平等に与えられるという考え方に基づいている。
今後は、様々なアート作品のデータにインターネットを通してすべての人がアクセスできるところまで広がっていくことが望まれる。
アートの創造
同様に、アートの創造も全ての人々に開放されるべきである。
これはアーティストが自由に表現する権利を持ち、その表現の自由が尊重されるべきだという考え方に基づいている。
しかしながら、現在の日本はいまだに公序良俗に関するアートの境界線が曖昧で常に問題となっている。
これまでも一部のクレーマーによる抗議を理由に美術館側が折れて展示を取りやめることが度々起こっている。
元来、アートにおいてはどんな形においても表現の自由は尊重されるべきであり、それを妨げることはアートの民主主義に則っていないこととなる。
これは国ごとのアートに対するリテラシーや理解度によって大きく違うのであるが、国民のみならず、国の公的機関がアートの創造性に対して制限をかけないことが先進国家の前提となっていることを忘れてはならない。
アートの評価
アートの評価もまた民主的なプロセスを経なければならない。
批評家や美術史家だけでなく、一般の鑑賞者も自身の意見や評論をする権利を持つべきだという考え方である。
しかしながら、現実的には、アート市場は資本主義により動かされている面が強く、富裕層や知識層が市場を大きく左右している。
例えば、高額なアート作品の購入や投資は、一部の富裕層によって行われており、アート市場の結果はこれらの人々が行う選択によって大きく影響を受けているのが実情だ。
また、アートの評価は専門的な知識を必要とするため、批評家や美術史家などの専門家の意見が大きな影響力を持っている。
このため、アートの評価は完全な民主主義とはなっていない。
しかし、インターネットやソーシャルメディアの普及により、より多くの人々がアートにアクセスし、自身の意見を発信する機会が増えてきているのは事実だ。
これにより、アート市場における民主主義の原則は少しずつであるが強化されていくことが期待されている。
このように、一連の民主主義的な施策は、アート市場の競争から取り残されたアーティストたちを救い、彼らが自身の表現を追求し続けるための新たな道を切り開く手助けとなる可能性がある。
しかし、現実のアート市場にはこれらの考えが実現するにはまだほど遠く、さまざまな問題や課題が存在している。
例えば、アート市場には一部の有名なアーティストや作品に価値が集中し、新進のアーティストやマイナーな作品が十分に評価されないという問題がある。
また、価格設定や評価プロセスには不透明性や不公平性が存在するとの批判もある。これらの問題に取り組むことは、アート市場をより民主的にするために必須と言えるだろう。
前回のコラムで書いたように、アート市場は資本主義的な競争が熾烈化し、優勝劣敗がはっきりする状況になっている。
そういう中で、アート市場にも民主主義による透明性や公平性を適用することで、救済措置が図れるだろうか。
その方策としては以下のようなことが考えられる。
価格の公開の強化
インターネットを通じて、新進アーティストは自分たちの作品を全世界に公開し、販売することが可能となった。
これにより、物理的なギャラリーやオークションハウスの壁を越えて、自分たちの作品を広く公開し、評価を得るチャンスが広がっている。
これは、公平な競争の場を提供することにつながり、アートの価値を一部の専門家だけでなく、一般の人々も参加する機会を提供することになるのだ。
作品評価のプラットフォーム
公的機関や民間の団体が新進アーティストやマイナーな作品審査や評価を公開することが、アートにとっての民主主義につながるだろう。
これまで、ある程度の知名度があるアーティストしか評価の対象になかったものを誰しもが評価できるようになるプラットフォームであり、その登場が待たれている。
アートの食べログのようなものだ。
これにより、知られることのなかったアーティストが世の中に簡単に見つかる手助けになりえるだろう。
これらの解決策は、アート市場をより公平で透明なものにし、多様なアーティストと作品が適切に評価される環境を作るための一歩となり、資本主義にまみれた市場からアーティストを助ける支援になりえるかもしれない。
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