橋本仁は東京藝術大学の修了作品展にて東京都知事賞を受賞し、鉄で鍛造された作品は上野恩賜公園に設置されました。大学院に進学後も安宅賞を受賞するなど、その活躍にはめざましいものがあります。
2016年の第11回TAGBOAT AWARDでは、木彫の作品が300名以上の応募者の中から見事にグランプリを獲得しました。
副賞で台湾のコマーシャルギャラリーで展覧会を開催し、その際に彼の曾祖父が台湾に疎開していた歴史から、橋本は自らのルーツを探す旅を始めることになります。
2017年6月に台北のG.Galleryで展覧会の開催と同時期に、タグボートの主催イベント「Indepedent台北」でもグランプリを獲得。
作品は彼のルーツとなる台北での古い家族写真をベースにした木彫りの作品で、圧倒的な技術力を持ちながらもコンセプチュアルな作品は他を圧倒し、台湾のコレクターが橋本の展示作品を全て購入するほど高い評価を得ました。
近年、ニューヨークなど海外でも精力的に作品を発表し、表現を変化させながら着実に進化していく橋本作品の魅力をご紹介します。
橋本仁 Jin Hashimoto |
鉄から木彫、そして色彩が引き起こす現象が表現の中心へ
東京藝術大学工芸科にて、在学時から鉄を使った彫刻作品を制作していた橋本仁。そのテーマは一貫して、行為と時間を「蓄積」させることです。
初期の鉄の重さ・強さを押し出した表現から、徐々に薄弱なものへと憧れるようになり、木彫に辿り着きました。近年ではアクリル絵具や樹脂といった素材も取り入れ、表現の幅を広げています。
最新作である色鉛筆を使った「Microcosm」シリーズも「色鉛筆の粒子が紙の凹凸に溜まることで色面が現れる」という意味での蓄積を表現しており、素材や表現方法が変わっても、全ての作品の根底にある一貫したテーマを感じ取ることができます。
これまでは素材の自然な色をそのまま活かしてきた橋本。
もともと「色」を使う表現は好きではあったものの、視覚的に訴求力が強いため意図的に封印してきたといいます。
ですが研鑽を積み、作家としての表現を確立したことにより、満を持して色彩表現を取り入れることができたのです。
色彩の表現が解禁され、より一層幅広い表現が生まれるようになりました。
樹脂という素材と向き合い、表現の可能性を探る
最新作で取り入れるようになった素材である「樹脂」。
作家は、樹脂という素材は、表現の中で扱うにはあまりに蠱惑的な要素を孕みすぎるものだと考えていました
その透明性と艶やかな質感は観る者を惹きつけ、頑健な質感は作品を半永久的に保持し、時間の流れを忘れさせるように感じていたのです。
ですが、最新作ではその性質を生かし、色彩を際立たせながら、素材の質感を奥へ沈める作用を求め、樹脂を扱っているといいます。
例えば、Panta rheiシリーズでは、まるで水中を覗き込むかのように感じられ、人間の住む世界とは違う「あちら側」を見ているかのように想起させる効果を狙っているのです。
作品制作で大切にしていること
作家が作品制作で重視している点は2つあります。
1つ目は、作品の存在そのものが空間の中で作用し、「圧」を生むことです。
空間に強く作用する立体の性質と、描線や色彩が視覚的に作用する絵画の両方の性質を駆使しながら、作品の形態に捉われず、空間の中で確かな存在感や圧を持つような作品を目指しています。
2つ目は、コンセプトです。
ほとんど全ての作品で「蓄積」というテーマを根幹に据えながらも、作品ごとにコンセプトを設定し、表現しています。
作品を鑑賞すると、作家が持つ感受性が直に伝わってくるような迫力を感じ、思念の渦巻きを窺い知ることができます。
例えば、先日阪急メンズ東京にて開催された展覧会「CORE part2」で展示した「Daydream」シリーズ。
タイトルの「Daydream」は英語で白昼夢の意味を表します。
そして「13:05」という時間は、実際に樹脂を流し込んだ瞬間を永遠に封じ込めた時刻の記録です。
アクリル絵具による現象的で流動的な表現は、現代を生きる人々の意識や日常そのものを表しています。その在り方を作家は、「白昼夢の中に生きている」と呼んでいます。
樹脂を使って流動性的な状態を永久に留めることで「まるで白昼夢の中を漂うように生きている現代人に、その状態を自覚し、日常に確かな実感を取り戻してほしい」という思いを込めています。
ー「蜃気楼のように現れては消える近視眼的な現象に翻弄され、思考停止に陥っている現代の我々。
宙に浮いた己の影が本当に自分のものだと言えるのかどうかもわからないまま、日はまた昇り、月は満ちて欠けていく。
そんなあやふやで空虚なものが「日常」でいいのだろうか。
ふわふわと漂うように「人生」を過ごしてしまっていいのだろうか。
白昼夢から目を覚まし、流れ去るものに確かな存在感を与えよう。
橋本仁」
橋本仁 Jin Hashimoto |
1984年 埼玉県生まれ
2011年 東京藝術大学美術学部工芸科鍛金研究室 卒業
2014年 東京藝術大学美術学部工芸科鍛金研究室修士課程 修了
●グループ展
2009年 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009 克雪dynamoアートプロジェクト 山本浩二CAPフロギストン メンバー (仙田小学校、新潟)
2009年 Light Feeler -触覚により「見る」- (ギャラリー空、東京)
2012年 第12回 KAJIMA彫刻コンクール 入賞作品展 (鹿島KIビル・アトリウム、東京)
2016年 第11回 TAGBOAT AWARD 入選者展(世田谷ものづくり学校 ⅡDギャラリー、東京)
2016年 第11回 日本現代藝術 Tagboat Award 特別展(Galerie F&F、台北)
2016年 SHIBUYA STYLE vol.10 (西武渋谷店、東京)
2017年 THE WORLD IS SQUARE, 橋本仁 / 黄大(G gallery、台北)
2017年 Independent New York (Ashok Jain Gallery, NY)
2018年 Code,Line,Sides (Pinacotheca gallery, Tokyo)
2018年 FORSAKING POP: A NEW ART GENERATION FROM JAPAN (WhiteBox, NY)
2018年 ALL ART+ (Van Der Plas Gallery, NY)
2018年 青参道アートフェア2018
2019年 Treasure Hill Artist Village 2019 Season 4 Residency Artists Exhibition(Treasure Hill Artist Village, 台北)
2020年 デイジーチェーントーキョーアーツアンドスペースレジデンス2020
成果発表展(トーキョーアーツアンドスペース本郷)
●個展
2013年 橋本仁 展 -橋本曼荼羅- (Overland Galler、東京)
2014年 橋本曼荼羅 -あしとりんご/”Who”の肖像- (Overland Galler、東京)
2018年 Chained -連鎖のなかに- (tagboat gallery、東京)
2018年 Jin HASHIMOTO / Memory Code 【Crony Art Program】(Crony, Tokyo)
2019年 MEMENTO MORI(阪急MEN’S tagboat gallery, 東京)
2020年 Jin Hashimoto Solo Exhibition / Memory Code(郭木生文教基金會, 台北)
2021年 VIRTUS (阪急MEN’S tagboat gallery, 東京)
●公共展示
2011年 東京都上野恩賜公園 作品設置
2012年 SAS(ストリートアートステージ)作品設置 (取手駅前、茨城)
2012年 南アフリカ共和国日本国大使館(公邸)にて展示 (現在、日立パワーアフリカ社にて展示)
2013年 大学評価・学位授与機構 エントランス、機構長室 作品設置(大学評価学位授与機構、東京)
●アーティスト イン レジデンス
2017年 PIER2 Art center (高雄、台湾)
2017年 中之条ビエンナーレ 2017 (群馬、日本)
2019年 トレジャーヒル・アーティスト・ヴィレッジ,(台湾、台北)(トーキョーアーツアンドスペース二国間交流事業プログラム)
●受賞歴
2011年 東京都知事賞 (東京藝術大学、東京)
2012年 第12回 KAJIMA彫刻コンクール 奨励賞 (KAJIMA彫刻コンクール、東京)
2012年 安宅賞 (東京藝術大学、東京)
2016年 第11回 TAGBOAT AWARD グランプリ(TAGBOAT、東京)
2016年 第34回 三菱商事ART・GATE・PROGRAM 入賞
2017年 Independent Art Fes TAIPEI 大賞
●メディア露出
-Artefuse (New York City)