制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストのタルタロスさんに、3回目のお話を伺いました。
第1回 TARTAROS JAPAN「How to Make」独自の絵画手法 Automatic Painting
第2回 TARTAROS JAPAN「How to Make」瞑想空間をキャンバスに映し出す
タルタロス |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
「浮世絵紙幣絵画」「REALCAMO」シリーズを紹介します。
『Automatic Wave H60583472B (葛飾北斎 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏) 変換』TARTAROS JAPAN, 91×65cm, 2019, $紙幣・日本銀行券・金銀箔・アクリル・木製パネル
浮世絵をモチーフに選んだ理由はなんですか?
日本人が親しみ易く、世界でもマーケットがある。江戸時代の作品で新品の原画が現在も流通している浮世絵は、現役の美術品です。
『Automatic Mountain $ B43322506B』 TARTAROS JAPAN, 898×607mm, 2019, $紙幣・金銀箔・アクリル・木製パネル
素材の紙幣と浮世絵には共通する特徴があります。時代を超える力があり、誰でも知っている大衆性、大量に複製されても価値も信用もある。
紙幣は時代に合わせてデザインチェンジする事で、その時代での信用や価値を確保してます。
2024年から変更される新千円札デザインに北斎の神奈川沖浪裏が使用される
現代美術は投資との兼ね合いで注目される事も多く、紙幣→お金が持つ意味を美術品そのものに組み込み現代を表現する事がコンセプトです。
作品の色はどのように決めていますか?
主に金銀箔と紙幣の色をメインに、波や空の色を変えてバリエーションを作っています。
『Automatic Wave $ B43322589B Prussian blue 』TARTAROS JAPAN, 915 × 605mm, 2019
『Automatic Wave $B52278071B』TARTAROS JAPAN, 915×607mm, 2019, $紙幣・日本銀行券・金銀箔・アクリル・木製パネル
$紙幣はモノトーンですが独特の緑味があり、富士山に使っている千円札は青味のあるグレー、という風に紙幣の色味にも個性があります。
元々の浮世絵は鮮やかな色彩が特徴ですが、金銀箔と色のバランスを狩野派や琳派等の日本古典美術から取り入れています。
構図は浮世絵、色彩は狩野派、琳派、いわば古典日本美術の大スターを合成したスタイルです。
世界100カ国の紙幣を混ぜて無差別にコラージュする「AutomaticPainting(TARTAROS JAPANが独自に開発した手法)」を使って出る色味は、和服の生地の様な鮮やかさが生まれます。世界中の紙幣が集まると暖かい色になるという象徴性が面白く、美しいと思います。
Realcamo World AutomaticWAVE 2020 Tokyo HZ189545L GDP Top 5 Camouflage
この作品のアイデアはどのように思いつきましたか?
2016年末に$紙幣を刻んでコラージュした抽象画を初めて発表し、「AutomaticPainting」に可能性を感じ、この手法で次に何を出すべきか考えました。
『36$cut972piece C54633915C-C54633950C 』 TARTAROS JAPAN, 932×392mm, $紙幣 アクリル版, 2016
「お金」を画材で使う事はイリーガル(違法性)な側面もあり、真面目なテーマでは重すぎ、抽象では出来ないユーモアやダイナミックさが欲しいと思っていた時、眺めていた国芳の浮世絵を紙幣でコラージュする事を思い付きました。
『地球に乾杯 酒呑童子対紙幣侍衆 』TARTAROS JAPAN, 2017 , 世界百カ国紙幣 国連常任理事国紙幣, アクリル , 60×30cm, 歌川国芳 大江山酒呑童子 引用
国芳は漫画の元祖と言われる程に漫画的で風刺も効いてて当時の江戸庶民にとても人気がありました。彼の世相を切る感覚がコンセプトとマッチしていると思いました。
その流れで北斎の神奈川沖波裏も候補に浮かび、これは面白い!と一人でウケてた記憶があります。
神奈川沖波裏は、印象派にも大きな影響を与えたジャポニスムのシンボル、日本美術の頂点と言って良い作品です。
日本人である自分が現代美術としてリメイクする事でこの絵に別の命を吹き込めるのは誇らしい事です。
『AutomaticWEVE Katsushika Hokusai Transformation 葛飾北斎 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏 変換 』TARTAROS JAPAN, 91×65cm., Wood panel, acrylic, dollar, Bank of Japan tickets, gilt silver foil(1枚目に制作したAutomaticWEVE)
この作品はどんな人に観てもらいたいですか?
老若男女問わず地球上でお金に関わらない人は本当に少ないので、様々な捉え方があると予想してます。
このシリーズは現在国内より台湾や中国のセールスが大きく先行している状況です。先日台湾のオークションにも出品されました。
海外の方に人気があるので、オリンピックイヤーに日本に来られる外国の方に沢山観て欲しいです。もちろん日本の方にも。
この作品はどのような場所で観てもらいたいですか?
旅館やホテル、和食店やお寿司屋さん、レストランやバーとか。インパクトや華やかさを添えれる作品ですので、人を饗す場所は絵が活きる場所だと思います。
刺激の強い作品の為エネルギーや活力を入れたい場所には良い効果があると思います。
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
絵柄の意味と紙幣コラージュの相乗効果、和の美学を紙幣と合成した現代性です。
この作品に使っている材料はなんですか?
金銀箔は出身地金沢の箔専門店カタニ様から主に仕入れています。パッケージに職人を育てる理念が書かれてある点にも共感しました。
世界中の紙幣は銀行他ネットで仕入れるのがメインです。新札が多いですが、古い紙幣も混ぜる事で画面に深みが出るので両方を混ぜて使います。100カ国集めるのは本当に大変です。
紙幣にこだわる理由はなんですか?
どうして本物の紙幣を使うのか?という質問をよくされます。お金は社会を動かしている基本ツールですが、文明史の中で誰が発明したのかはっきりしてません。現代を理解する上で最も重要なのがお金への信仰だと思い素材にする様になりました。
現代にキャッシュレス社会は確実に来ており、中国やスウェーデンは国を上げて現金を使わない社会へ移行しようとしています。
コロナの影響で、レジの現金に少し不安を覚えた方は少なからずいるのではないでしょうか。今後紙幣が消えていく社会になるほど入手も困難になり、作品価値にも影響を与える可能性があると思います。長い時が経たないと解らない事ですが。
何れにせよ現金という存在自体が今後変化する事は避けれない事でしょう。
紙幣の扱いについてこだわっていることはありますか?
紙幣が本物である事です。
「REALCAMO」は、本物(紙幣)と、フェイク(スキャンされたコラージュ画面)の混在です。
制作にとりかかる前に準備することはありますか?
画集やネットで絵柄を眺めて、素材を探します。紙幣との相乗効果の高い絵柄を選定するのが大変です。ある意味で最も重要な段階で、作品の質の半分以上はこの構想段階で決まります。
『日本海金歯髑髏 (歌川国芳 相馬の古内裏) 引用 』TARTAROS JAPAN, 915×443㎜ , 1ドル紙幣、1万円札、日本海沿岸諸国紙幣、世界100カ国紙幣、アクリル、金箔、パネル, 2019
日本海金歯髑髏は有名な妖怪”ガシャ髑髏”の原型です。この絵に先ず惹かれたので詳しく調べると題材のお話と絵の構成に国芳の工夫や上手さを感じました。更にこれを現代に置き換える事で別のストーリーが語れると気付きました。そういう構想段階が作品の重要な命になります。
制作はどのような手順で進めますか?
「浮世絵紙幣絵画」→「REALCAMO」の順序で説明します。2つのシリーズは似て異なる作品です。
下地処理したパネルに、下絵となる原画を写し彩色箇所の下地白を塗ります。
紙幣をAutomaticPaintingでコラージュしていきます。
AutomaticPaintingで偶然出来た配置で紙幣が並んでいく様子は、何かが自動再生されている様な不思議な感覚です。自分で作っているようで作っていない運命的な要素を強調する手法です。
はみ出す形状で張り込みます。
波のラインでカットします。
北斎の波に用いる事で自然と文明、日本と世界。経済と流動性、等のイメージが湧いて来ます。彩色して金銀箔を張り込みます。
北斎のサインを紙幣で覆い隠し、製造番号が作家サインとして作品を保証するコンセプトを強調しています。
『World Automatic Wave ¥ES591691S OKINAWAエメラルド』TARTAROS JAPAN, 915×604mm , パネル厚30mm, 2019, 世界100カ国紙幣・1000円日本銀行券・金銀箔・アクリル・木製パネル
箔を貼った上から彩色と仕上げコートを施し最後にタイトルを紙幣で埋めて完成です。
◆REALCAMO 紙幣カモコラージュ版画
『Realcamo World AutomaticWAVE 2020 Tokyo HZ189545L』GDP Top 5 Camouflage, 915×605mm, 2020, 額装サイズ1070x770mm, ジークレー.シルクスクリーン.世界100カ国紙幣カモフラージュコラージュ(1種30部限定)
完成した原画を外部の専門業者で高解像度スキャンし、画像データ化します。
スキャン画像
画像データをPC上でPhotoshopで素材に分離して新しいデジタル原画をIllustratorで合成で作り込みます。
Illustratorで浮世絵原画のラインをトレースします。この工程が一番大変です。
北斎の筆跡は驚くほど細かく強弱が付けられており、拡大するほど、その凄さに圧倒されます。これを版木に掘った職人達も北斎と同様に凄い技術者である事を再認識しました。
同構図でデザインバリエーションを作ります。
『Realcamo AutomaticWAVE Prussianblue Gold sky silver splash B52278001B $Camouflage』TARTAROS JAPAN, 915×605mm , 2020
『Realcamo AutomaticWAVE black silver sky gold cloud silver splash B52278088B $Camouflage』TARTAROS JAPAN, 915×605mm, 2020
デジタル原画が完成したら専門業者でジークレー出力し、その上にシルクスクリーンで3回シルク印刷をかけます。
全体を透明なシルクスクリーンインクでコートしてインクの乗りを良くします。
波と主な線を全てグロスインクを厚盛りして浮世絵のラインを際立たせます。
飛沫のゴールドラメ光沢インクを印刷。飛沫の煌めきを金銀が舞い散るイメージでラメコートします。
サインプレートを紙幣絵画と同様にコラージュで仕上げます。
5ユーロ紙幣、光る部分が偽造防止のホログラフィー
最後に波の中に紙幣を隠します。
本物紙幣を実際に探すのは大変です!
貼った後でも見つけ出すのに苦労します(笑)。
日本銀行のマークが日本銀行券。本物なのでピントが合うような差がある。
「カモコラージュ」はカモフラージュとコラージュを混ぜたREALCAMOで開発した技法です。本物(リアル)紙幣を刻んで、印刷(フェイク)した版画に隠しました。
本物を探す時、リアルフェイクで構成されたカモフラージュ世界に迷い込む仕掛です。浮世絵紙幣絵画とコンセプトが異なるのはここです。
現代の虚実混同された世界を「REALCAMO」はとらえようとしています。偽の虚構に本物の紙幣がカモフラージュしている逆転構造がこの作品の特徴です。
実際、現代という時代は虚実が入り乱れ何が真実なのかが見分け難い、情報の洪水が続く時代です。そこから時間をかけて我々は必要な情報を探し出さなければなりません。
制作にかかる時間はどれくらいですか?
浮世絵紙幣絵画は20日〜1ヶ月程度です。
「REALCAMO」は、デザインが完成していれば印刷から数枚を同時進行して1ヶ月程度です。原画からスタートすると3ヶ月は必要です。
制作しているときはどのようなことが頭に浮かんでいますか?
浮世絵という複製された美術品を、紙幣絵画で何度もリメイクして、更に「REALCAMO」でもリメイクし続け、リメイクを繰り返す事がこのARTの秘密なのかなとか、作品そのものを楽しんでいます。
今後はどのような活動を予定していますか?
近日「AutomaticWEVE」のコミッションワーク版を開始予定です。お客様の好みで紙幣、サイズ、色、を構成して頂き、要望に合わせて作る世界に一つのオーダーメイド版です。
外出自粛期間を終えて、変化したことはありますか?
少し空気が変わったようにも思います。皆さん前向きに頑張ろうという気持ちが以前より大きくなっているように思います。
これからも変化は続くでしょう。現代美術はそういった世界の変化を受け取り易く柔軟に変化出来る美術だと思います。
それが伝統美術や伝統工芸とは違った魅力であり現代に生きる人間の活力にもなります。
時代性と浮世絵の様に時代を乗り越える力、両方持った作品を作っていきたいと思います。