制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストのタルタロスさんに、二回目のお話を伺いました。
タルタロス |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
瞑想抽象絵画メディテーションフィールド「IDEA」 シリーズです。
個展「IDEA」会場(みんなのギャラリー.東京)
この作品は、私自身の瞑想体験をモチーフにしています。絵を描き始めた初期に瞑想の絵画化を試みて、メディテーションフィールドシリーズを開始しました。当初は具象性の強いピラミッド、マウンテン、幻獣等のシリーズで瞑想体験の視覚化を探っていました。
『White Jungle』Canvas, acrylic, gesso, W41× H28, 2014(タグボートアートフェス2014審査員特別賞受賞)
『Emerald Mountain Black Sea』Canvas, acrylic, ink, oil, H38 × W45.5㎝, 2014(タグボートアートフェス2014審査員特別賞受賞)
初期の絵画は瞑想中の雰囲気や視覚をリアルに再現しています。殆どの人は私の絵を見た時、創造や空想で描いたのだろうと解釈します。
しかし私にとっては空想では無い実体験で、意識のはっきりした状態で視る景色や空気感まで感じる、もう一つの現実程のリアリティのある体験でした。
『Black Pyramid Black Sea』Canvas, acrylic, oil, 65×90㎝, 2016
展示して鑑賞者の反応をみるなかで、課題が出てきました。鑑賞者に瞑想感覚を伝えたくても、その手前で虚構として認識される事に違和感と疑問を持つ様になりました。瞑想体験の無い人が殆どなので、反応は理解出来ます。そこで、鑑賞者から空想や想像等、虚構性の意識を出来るだけ除き、瞑想感覚だけを純粋に体験できる方法論を探る様になります。そして見つけた一つの答えが、具象性を抑えた抽象絵画です。
『IDEA Blue veil/観想 青いベール』1302×804 mm , 油彩, アクリル, キャンバス
具体的にモノや景色を描写をしない事で、観賞時に先入観を持たず、感覚に集中してもらう事が、抽象化によりある程度は出来ます。その最初の実践として描いたのがメディテーションフィールド「IDEA」シリーズです。
色彩が印象的ですが何かこだわりはありますか?
瞑想中の空間の色や空気を再現しています。
現実には無い光や色、空気感があり再現は非常に困難ですが、「IDEA」である程度は出来た感触があります。
瞑想体験を描こうと考えたきっかけはなんですか?
2016年頃アメリカの抽象表現主義の画家マークロスコの画集を読んでいた時です。
画集にロスコがイタリアを訪れたとき、「自分ではそうとは知らずに、今までずっと神殿を描いて来たんだ」と語ったとあります。
ロスコの神殿の様な抽象絵画
抽象画家が無意識に具象モチーフを抽象化して描いていた事を語っていたのです。これがヒントになり、瞑想体験を抽象化する事を思い付きました。
ロスコの絵画を実物で観た事がありますが、とても瞑想に近い感覚でした。大きな画面は視界を包み込むカラーフィールドと呼ばれ、瞑想空間を体感する様な感覚です。
彼の作品も好きだったので、この抽象化と具象的なビジョンの関係性をメディテーションフィールドに活かそうと思いました。カラーフィールドの応用です。
この事についての詳しい推敲は、note連載「抽象絵画再考」に連載中。
この作品はどのような人に観てもらいたいですか?
何方でも。人によりどんな反応や感覚になるのか興味があります。あとは、リラクゼーションの空間が欲しい方や、抽象画に興味のある方、瞑想、ヨガ、禅、マインドフルネス等に興味のある方などでしょうか。
この作品はどのような場所で観てもらいたいですか?
「スペース×キーワード」として、リラックス、プライベート、リビング、ダイニング、リラクゼーション、コマーシャル、コミニケーション、休憩、エントランス、等でしょうか。
場所によって絵の機能も変わリます。必要な場所と人に届けば絵が活きるので、絵の運命で決まる、絵が決めた場所が良いですね。
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
実際に実物で体験しないと解らないタイプの絵画だと思います。観る距離感や焦点、観賞時間等で印象が異なります。
Youtube『IDEA EARTH Green aura/観想 地球 グリーンオーラ』油彩, オイルパステル, アクリル, キャンバス, 125×220cm, 2020
ボーッと視点が泳ぐ様に観ていると、次第に焦点が合わなくなって来ます。そこから空間を泳ぐ様な感覚に入り、観る時々で印象が変わります。
『IDEA EARTH In rainbow/観想 地球 虹の中』油彩, オイルパステル, アクリル, キャンバス
, 220×125cm, 2020
「観想」というのは、鑑賞にも使える方法です。
絵を前にして何が観えて来るかを楽しんでも面白いと思います。鑑賞後の体調や心理状態を観察して自分が何を感じたかを観てほしいです。
制作現場はどのような場所ですか?
沖縄の田舎に移住したため、土地の開放的な雰囲気もあり、表現の自由度が高まった気がします。普段観る景色の影響があるように思います。
情報や刺激が少ない事、自然が身近で景色が綺麗な事は特に気に入っています。
ただ、アトリエが狭いので「IDEA」の現状2200サイズが限界です。もっと大きな絵を描きたいので引っ越ししたいのですが、彫刻も作っているので作業場の切り替えが大変です。
この作品には何の材料を使っていますか?
油絵の具、仕上げで一部オイルパステルを併用しています。アクリルを使う事もありますが「IDEA」シリーズは油彩が多いです。
『IDEA EARTH regression/観想 地球 回帰』910×654mm, 油彩, キャンバス
これらの複数の材料を選ぶ理由はなんですか?
質感、色味、艶、微妙な世界です。
油絵の具は欲しい発色を得られるので気に入っています。しかし値段が高く、乾燥に時間がかかるデメリットもあります。
絵の具を使う上で工夫していることはありますか?
絵の具を薄く塗り重ねる手法で、平面だけど奥行きのある空間性を出せる様に工夫しています。
制作にとりかかる前に準備することはありますか?
自分が追体験したい瞑想感覚のイメージを掴む事から始めます。
準備が整ったらどのような手順で制作していきますか?
ドローイングを繰り返し、参考になる資料を眺めたり、瞑想したり、ボーッとしたり、を繰り返します。気が向いたら一気に取り掛かります。
描くときは瞑想状態に近い感覚で描く事で絵が生きてくる様に感じます。
絵の具が乾くのを眺め、乾いた後も暫く絵を観察します。1日〜3日、長い時は1週間以上、眺めて次の印象が観えて来るまで待ちます。この工程がとても重要な気がしています。
これを「観想」と名付け、シリーズ名にもしています。「IDEA=観想」です。「絵が観えて来る」感覚を受け入れて描く事を重視しています。
そのような制作スタイルになったのはどうしてですか?
瞑想というのは、観えて来るものを、そのまま受け入れる事で次々とイメージが展開し、深い感覚に変わって行きます。そのフィーリングを絵画に定着させる為に、あえてじっと描かない時間を大切にしています。
『IDEA EARTH Green aura/観想 地球 グリーンオーラ』油彩, オイルパステル, アクリル, キャンバス, 125×220cm, 2020
制作にかかる時間はどれくらいですか?
小さな作品で1週間前後、大型で10日〜1ヶ月ぐらいですが、作品により待つ時間が長くなるともっとかかります。
作品の完成はどのようにして見極めますか?
来た、というか、出来た、と解る瞬間が来ます。そこを逃して更に描き続けて失敗する事もあります
作品のピークを見極める力が必要で、今後も高めていきたいです。
最初のイメージに拘らない事も重要です。観想している時に当初のイメージから全く異なるイメージが観えて来る時があり、それを受け入れてその世界に入っていく勇気というと大袈裟ですが、そういうのが重要だと思う様になりました。
制作中はどのようなことが頭に浮かんでいますか?
不思議ですが、他のシリーズ、コンセプチャルWORKや偶像彫刻等のシリーズを作っている時は思考が活発に動きます。
ですが、この「IDEA」を含めたメディテーションフィールドシリーズを制作しているときは、ほぼ何も浮かばない感覚的な状態になります。食欲も減りリラックスした特殊な体調になる事が多いです。
絵によって様々な反応があり、満たされる様な時もあれば、感情が開放される様な時もあります。
制作の中で好きな作業はありますか?
「観想」している時、何かが観えてきた時に感動します。それが絵のテーマや命の様なもので、それが観えたり体感出来た時が最高です。
制作の中で誰でも真似できる工程はありますか?
色を重ねて待つ、観想する工程は子供でも楽しめるかも?活発な子供だと退屈かもしれません。
今、作家として伝えたいことはありますか?
とても特殊な状況なので、自分の心の動き、世界の変化を観察しています。人類全体が立ち止まって考える、貴重な機会だと思います。それは、私自身の今後の作品にも影響を与える出来事となると思います。そして、今後の世界に活かせる様な作品を作っていきたいです。
タルタロス |