イタリアに渡った理由
絵を描くことは、特別なことではなかった。
AKIKO KONDOにとって、それは日常の一部だった。
母が絵画教室を開いていたため、彼女の生活の中にはいつも筆とキャンバスがあった。しかし、それは「好きだから」ではなく、「ただそこにあるもの」だった。
彼女が美術の道へ本格的に進むきっかけは、ある一言だった。
20歳のとき、アートコンペで池田満寿夫から「君はパリに行くべきだ」と言われた。しかし、彼女が選んだのはフランスではなくイタリアだった。
ミケランジェロの彫刻に惹かれ、そのルーツを自分の目で確かめたいと思ったのだ。
その選択は、彼女の作品に決定的な影響を与えた。西洋の美学と日本の伝統が交差する場所として、彼女の表現は独自の進化を遂げていく。
伝統と革新の間で
AKIKO KONDOの作風は、日本画の伝統と西洋の技法が融合した独特なものだ。
金箔や銀箔を用いた繊細な表現は、琳派を彷彿とさせながらも、決して過去にとどまるものではない。
むしろ、伝統を尊重しながらも、現代の空間にふさわしい新たな解釈を生み出している。
彼女の作品には、細部を削ぎ落としながらも豊かな「間」がある。
この「間」は日本特有の美意識に基づいたものであり、余白が生む静寂が作品に奥行きをもたらしている。
しかし、それだけでは終わらない。そこに加えられる光と影のコントラスト、金や銀の輝きが、作品をただの静謐なものではなく、見る者を惹きつける力強さを持つものへと昇華させている。
このバランス感覚こそが、彼女の作品の魅力である。
古典に根ざしながらも、固定観念にとらわれない自由な表現。それは、まるで日本庭園の石と苔の配置が計算され尽くしているようでありながら、決して人工的に見えないことと通じるものがある。
「金に梅図」53x 86 x2cm, 金に梅図
時間を纏う絵画
AKIKO KONDOの作品が持つ最大の魅力は、「時間」を内包していることだ。
金箔や銀箔は、光の当たり方や時間の経過によって見え方が変わる。
朝の柔らかな日差しの中では静かに光を受け止め、夜の間接照明の下では深みのある輝きを放つ。一日の中でも変化し、持ち主と共に時間を重ねていく。
また、彼女の作品には、飾る空間に寄り添いながらも、それ自体が主張を持つ力がある。
それは単なる装飾ではなく、空間の雰囲気を変え、見る者に静かな問いかけをする存在となる。
和と洋、伝統と革新、静と動──相反する要素を内包しながらも、調和を生み出すその作風は、まさに「時間と共に育つ絵画」と言えるだろう。
AKIKO KONDOの作品を迎え入れることは、単に「アートを所有する」ことではない。
それは、日々の暮らしの中で、作品の変化に気づき、対話を重ねることでもある。その余白に何を見出すかは、見る者の感性次第だ。