アートの世界では「見るだけの人」が経済的な価値を生まないと感じるかもしれない。
というのも、鑑賞は無料で楽しむことができるからだ。美術館では入場料が必要なことが多いが、ギャラリーは通常無料で開放されている。
それでは、なぜギャラリーは無料で作品を展示しているのか。この点を考えると、ギャラリーが果たす役割が見えてくる。
ギャラリーはただ作品を「見せる」だけではなく、その背後にあるマーケティング戦略が存在している。
ファッションのブランドショップが商品を並べて自由に見せるように、アートギャラリーも作品を無償で提供することで観客に「体験」を提供する。この体験は、見るだけでは終わらない可能性を持つ。
鑑賞者が作品を見て感じる感情や印象は、作品への興味を高め、最終的に「購入」へとつながることが期待される。
また、作品を見て「共有」することも、マーケット形成において重要な役割を果たす。SNSや口コミを通じて、自身の鑑賞体験を他者に伝えることで、作品の認知度が広がり、コレクターや購入希望者を引き寄せることができる。
特に、アートギャラリーはその独特の雰囲気やアーティストとの近い距離感が、観客に深い印象を与えることが多い。
無料で開かれていることで、幅広い層の人々にアクセス可能となり、アートに親しみやすい環境が提供されるのだ。
これにより、鑑賞者層が拡大し、アートに関心を持つ人々が増えることで、最終的にはマーケット全体の拡大につながる。
アートの価値は、購入者だけでなく「見るだけの人」によっても高められる。
彼らは直接的にアートを購入しないかもしれないが、ギャラリーでの体験を通じてアートの魅力を広め、潜在的な購入者を呼び寄せる役割を果たす。
そして、こうした無料での鑑賞機会が増えることで、アート市場全体が活性化し、より多くの作品が評価され、売れる機会が増えることになる。
ギャラリーが無料でオープンしていることは、単なる「展示」の役割にとどまらず、観客と作品の出会いを創出し、観客の体験が作品の価値を高め、最終的には市場の拡大に貢献するのだ。
一方で、特別な展示において入場料を徴収するビジネスモデルが、ギャラリーにも存在する可能性についても考慮する必要がある。
この場合、ギャラリーはアーティストやその作品の希少性や注目度を活用し、鑑賞するだけでも価値があると考える人々から収益を得ることができる。
特に、著名なアーティストや期間限定の展示などは、入場料を支払ってでも見たいと思わせるほどの引力を持つ場合がある。
例えば、チームラボの展示が典型的な例だ。
このライブ体験型モデルは、単純に無料で鑑賞できる展示とは異なり、「鑑賞そのものに対する価値」が明確化される点が特徴だ。
つまり、アートを見るという体験そのものが商品化され、消費されており、これが今後のトレンドとなるかもしれない。
一方で、入場料を徴収することは「多くの人に作品を見てもらい、最終的に売る」という目的に対して、一定の障壁を作るリスクもある。
特に、アートに親しみがない層や、まだアートに対する金銭的投資に踏み切れない層にとって、入場料は参加をためらう要因となりうる。
したがって、ギャラリー側は、このライブ体験型モデルがアート市場全体の拡大を阻害しないように慎重にしなければならない。
特定の展示やイベントで収益を得つつも、オープンで無料の展示を並行して行うことで、鑑賞者層の広がりを確保し続けることが可能なのだ。
入場料を設定することは、アートの価値を一層高める戦略として機能するが、長期的な市場の成長には、アートを広く公開し、興味を持つ人々を増やすことが欠かせない要素だ。
新規顧客を創出することによって、アート市場の活性化は見込まれる。
これは単に購入者を増やすだけでなく、アートに対する理解や関心を広げることで、潜在的な購入層を形成し、長期的に市場を拡大していく効果がある。
特に、アートは一度興味を持たせれば、長く続く趣味やライフスタイルの一部として定着しやすい分野であるため、新規顧客を増やすことは、アート市場全体の成長に大きく寄与するのだ。
また、デジタル技術の進化により、SNSやオンラインギャラリーを通じて新たな顧客層にアプローチすることが可能である。
これにより、物理的なギャラリーに足を運ぶことが難しい人々にもアートを届け、彼らが購入者や支持者として市場に参入するきっかけを作ることができる。
現時点では、チームラボ的な「見る人」から入場料を取るモデルよりも、新規顧客の開拓のために誰しも気軽にアートを見る体験を促すことが重要であることは間違いない。
東菜々美 個展ウエブサイト
http://tagboat.co.jp/nanamiazuma_colors_shapes_and_spaces/
東菜々美 インタビュー
https://tagboat.tokyo/artistinterview/nanamiazuma
東菜々美 インタビューその2
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