「私は絵を描くためにイカを描いているのではなく、イカを描くために絵を描いています」—
宮内裕賀は国内初の、イカ墨、イカ甲、イカ水晶体などを画材に加工し、イカでイカを描く画家です。
常人にはない発想力と、イカへの突き抜けたこだわり。
近年その実力が着実に評価され、第22回岡本太郎現代芸術賞入選、TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 アートコンペ準グランプリ、マネックス証券 ART IN THE OFFICE 2020 受賞など、現代アーティストとして輝かしい賞を総なめにしました。
マネックス証券 ART IN THE OFFICE 2020 受賞作品
その首尾一貫した姿勢は、知れば知るほど作品の魅力を増していきます。
徹底してイカに埋め尽くされた、独自の制作の秘密に迫ります。
宮内裕賀Yuka Miyauchi |
サステナブルな制作工程
絵を描くための材料は、度重なる実験と研究を積み重ねてイカそのものから作ります。
イカ専門店、寿司店、市場、漁業関係者から破棄されるイカの内臓などの提供を受け、墨やイカ甲や水晶体を取り出して画材に加工し、余すところなく使っています。
更に、実際にモチーフにしたイカは食事にするという宮内。
最初から最後までイカへの敬意を払い、環境に配慮しながら制作しています。
「アオリイカ共喰い」27.3 x 45.5 cm, 木製パネルに水彩/イカ墨、アラビアガム
経年による色合いの変化が楽しめる
地中海では古来よりインクや画材として使われていたイカ墨。
レオナルド・ダ・ヴィンチがやレンブラントなど名だたる画家も愛用していました。
セピア色という言葉がありますが、セピアとはギリシャ語でイカという意味です。
長い年月を作品と共に過ごせば、イカの黒い墨は少しずつ褐色(セピア色)に近づいていくと言います。
宮内によると、制作後8年が経過する作品でも、通常の環境では大きな変色は無いとのこと。
ただし、紫外線の強い照明や、直射日光が当たると数ヶ月で色が薄くなります。
このイカ墨ならではの色合いの変化を楽しめるところも、魅力のひとつと言えます。
「サメハダホウズキイカ」 15.8 x 22.7 cm, 木製パネルに水彩/イカ墨、アラビアガム
「生死」 80.3 x 53 cm, 木製パネルに水彩/イカ墨、イカ甲、アラビアガム、マイカ
イカへの尽きない愛情
宮内がイカ画家として目指す目標は、「イカでイカにイカを描くこと」。
絵具にするだけでは飽き足らず、筆や作品の支持体そのものもイカで作るという野望を持っています。
その姿勢の根底にあるのは、イカを愛する心。
自然の中でここまで成長してたくさんの人の手を経て、自分のところまできてくれたイカのことを思い、
陸に揚げられ1杯の鮮魚になる前、海でうまれて1匹として生きていたイカの一生を受け取り、作品にいかすという宮内。
イカの魅力を伝えるために、宮内はこれからもイカの絵を描き続けます。
「イカセカイ」 72.7 x 116.7 cm, 木製パネルに水彩、油彩/イカ墨、イカ甲、アラビアガム、マイカ
宮内裕賀Yuka Miyauchi |
宮内裕賀
1985年、鹿児島県生まれ。タラデザイン専門学校卒業。
第14回ナマ・イキVOICE アートマーケット グランプリ、第22回岡本太郎現代芸術賞入選、TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 アートコンペ準グランプリ、マネックス証券 ART IN THE OFFICE 2020 受賞、モノ・マガジン(ワールドフォトプレス)にて2013年よりイカコラム連載中。
これまでの展示に「全国いか加工業協同組合創立50周年記念式典」ホテルオークラ東京(2015)、「国際頭足類諮問委員会函館会議」函館国際ホテル(2015)、「Cephalopod Interface in Crete」ギリシャ・クレタ水族館(2017)、個展「イカスイム」レトロフトMuseo(2018)、「Street Museum」東京ミッドタウン(2020)などがある。