池伊田リュウは東京生まれ。人生の一時期を長野県の諏訪地域で過ごした経験をもとに、自身が持つ「共感覚」で捉えた景色から作品を制作しています。
2021年、Independent Tokyoにてタグボート特別賞を獲得するなど注目を集める作家の作品の魅力をご紹介します。
池伊田リュウ Ryu Ikeida |
下描き無し。最初の一筆から最後まで表現し切る
池伊田リュウは幼少期から自分の興味に従って自然と絵を描いていたものの、どちらかというとその後は音楽や文章を書くことなどに熱中していきました。
近年本格的に制作を始めたのは、やはり絵を描くという手段が表現したいことを最大限に表すことができると気づいたからだといいます。
アーティストを目指して作品発表を開始し、Independent Tokyo 2021では見事にタグボート特別賞を獲得しました。
下描きを一切せずに油彩で描くという作家は、最初の一筆から既に作品の一部になるつもりで、緊張感を持った独自のスタイルで制作しています。
キャンバスに油彩, 130x 162.3 x3cm, 2022
とにかく赤い主張を感じることのある場所とともに、風景とは何か、美とは何か、醜とは何か、「神」的なものは在るのか、言語化できない考えの移ろいを重ねています。
パネルキャンバスに油彩, 73x 52 x3.3cm, 2022
林から湧き上がる水蒸気の上昇と振動を、一種の生命エネルギーとして取り扱っています。
流動するエネルギー
通常、ある刺激から受け取るひとつの感覚に加え、ひとつまたは複数の異なる感覚を五感が知覚する「共感覚」。
作家は自身が持つ「共感覚」の働きによって、ある景色の中に、そこに実際に在るものに加えて「流動体の質」、つまり「流れ」や「色彩」を見ているといいます。
山地や水辺の移ろいゆく様子はエネルギーを感じさせ、その内在するエネルギーこそが作家の目に流動する視覚情報を与えるのではないか、と考えているのです。
キャンバスに油彩, 41x 31.8 x2.1cm, 2022
いつものいわゆる共感覚の働きで、定型の視覚とは別に捉えてしまう流動体の質を考えて描きました。
自然風景を描く時、足元深くには高温のエネルギーが蠢き、同時に冷めて落ちついた表面に付着した生命(植物など)の痕跡をまず目で追います。重複する視覚のエラーとして受け取っているものは結局はナカミのエネルギーによるものなのではないかという考えを絵として形に整理したものです。
キャンバスに油彩, 72.3x 61 x2cm, 2022
雪崩落ちる・または上昇する土地の力の勢いを焦点とし、想像上の死後一瞬だけの世界を重ねました。
自然への憧れと畏怖の念
作家は自然豊かな長野県の諏訪地域で過ごし、その頃の記憶に根付いた「原風景」としての景色をもとに多くの作品を描いています。
例えば、作品に度々描かれる二つで一つの「山」は、実在する故郷の風景をデフォルメしたものだといいます。
「共感覚」で見る自然の力に加え、そこには個人的な思いや、ふとした一瞬の気づき、あるいは郷愁の念が重ねられているかのようです。
キャンバスに油彩, 53x 45.5 x2cm, 2021
共感覚で捉えた色彩と流動的な印象を表現しました。
キャンバスに油彩, 45.6x 38.1 x2cm, 2022
「あの山」シリーズは、記憶の故郷である山に現実の出来事や私的な考えを投影したものです。
怖くて美しい状況を描きました。
パネルキャンバスに油彩, 102.5x 73.2 x3cm, 2022
ぬかるんだ地面と光と木々のゴーストが忘却を阻みます。特定の土地を離れたくない思い。
池伊田リュウ Ryu Ikeida |
東京生まれ。
2003年 第18回ホルベイン・スカラシップ奨学者
2021年 IndependentTokyoタグボート特別賞受賞
人生の一時期を過ごした諏訪地域の自然環境に影響され、山地や水辺の緩慢な変容、気流を共感覚で捉えた風景画を主に制作している。