国内のアート市場が小さいと、その国でのアート作品の価格は全体として上がりづらいという傾向にあります。
アート市場が日本と比較すると遥かに大きな米国や英国出身のアーティストの作品は相対的に高く感じます。
美大を出たばかりのアーティストでも日本の2-3倍くらいの価格で売られているのが現状です。
これはある程度の市場規模があれば高い価格でも誰かが買ってくれるという安心感に支えられている部分があると思われます。
また貸しギャラリーが欧米では少なくコマーシャルギャラリーがほとんどであることから、いかに作品価格を上げることがアートビジネスに重要であることを理解しているということもあるでしょう。
つまりアートは1万円の作品を売るのも100万円の作品を売るのもかかるコストにはさほど差がないので、少しでも高く売ることがギャラリーにとって収益性が高いからです。
一方、日本のアート市場はここ最近まで負のスパイラルに入っておりましたので、価格を高くすると売れないという傾向にありました。
マーケットが脆弱なので、買い支える顧客層が不足していることが原因です。
もう一つの問題は日本ではアーティストとギャラリーとの関係が固定化しており、最初に取り扱いをしたギャラリーとの関係をずっと続けることがあります。
あたかも終身雇用のようにアーティストがずっと同じギャラリーで展覧会を開催し続けることのほうが一般的で、一度決めたら他のギャラリーでは展示をしないアーティストも多いのです。
アーティストがギャラリーに対し忠誠を誓うのは美しい姿のように見えますが、一方で力のあるアーティストにとって販売力のないギャラリーが最初のキャリアとなると悲惨な運命を辿るかもしれません。
つまり、才能のあるアーティストはよりよい販売チャネルに変えることでもっと売り上げが伸びる可能性があるのです。
日本のアーティストはもっと販売に対して熱心にあるべきであり、売れないギャラリーのままでも我慢せずに新しいチャネルを積極的に検討すべきでしょう。
よいプロモーションをしているギャラリーによい作品が集まるほうが売れますし、それが本来の競争社会なのです。
さて、とは言うものの、元ZOZOTOWNの前澤氏の効果もあったのか最近は少しずつ日本でもアートを買う人が増えてきたことは事実です。
日本人の若手アーティストは全体として今がもっとも底値であるとも言われているため、上がる前に買っておいたほうがよいでしょう。
実はリーマンショック後の5年ほど前にも、台湾のコレクターが台北で開催されるアートフェアで日本人の作家の作品が安いということでよく買っていたことがありました。
リーマンショックで安くなった日本人作家は中国人作家と比べるとリーズナブルで質が高いので青田買いのような状態になったのでしょう。
しかし、その期間に日本人コレクターが若手アーティストを買い支えていないことが台湾コレクターに分かってからはあまり買わなくなったようです。
このようなせっかくのチャンスを自国でつぶすようなことは繰り返してはならないことです。
日本の現代アート市場は400-500億円程度と購入者のパイが小さいからこそ、短期間に1000億円と2倍にまで膨れ上がることはあり得ることです。
実際に中国のアート市場は1兆5000億円はあると言われており、日本の30-40倍の規模です。そこから考えるとまだまだ成長余力があるのです。
つまり、リーズナブルな作品を大量に買うという方式が今の日本市場に合っていると言えるでしょう。
ロックフェラー財団が多量に無名の米国人作家をコレクションしていたのには意味があり、現在ではその作家のうち一部がとんでもない価格に高騰することで全体としてはとてつもない資産規模にまで膨れ上がっています。
これは米国でのアート市場の拡大を以前から分かっていたのかしれません。
だからこそ、我々はこれから伸びる日本人作家の代表作を安いうちに買っておくことが賢いコレクションと資産形成につながるということを覚えておいたほうがよいのです。