一見さん、お断りの世界
アート業界というのは、まるで古い料亭のようなものである。
のれんはかかっているが、誰でも入れるわけではない。
中の様子も、料理の値段も、よく見えない。見えないどころか、見せようとしない。そういう文化が、今も根強く残っている。
たとえば、アート作品を買いたいと思っても、ギャラリーには値段がどこにも出ていない。
スタッフに聞いてみても「ちょっとお待ちください」と言われ、やっと出てきたのは「Price List」という紙の一覧表。
まるで「秘密のメニュー」のようなものだ。
なぜそんなことをするのか?
聞くところによると、「価格を出すと展示の邪魔になるから」らしい。
しかし、それだけではなさそうだ。
値段に裏表がある
アート業界には、実は「二重価格」というものが存在することもあるという。
常連さんにはAの値段、初めての人にはBの値段ということをやっていた時代もあったが、今では国内顧客と海外の顧客とでは別の値段設定だということをよく聞く。
もちろん、アートには交渉の余地があるのが当たり前、という考え方もある。
だが、売る側がどこまで開かれた姿勢を見せているかによって、その交渉の土俵も変わってくる。
たとえば、洋服屋では売れた商品はすぐに補充されるので、何が売れたかはお店に入っただけではわかりづらい。だが、アートは違う。
売れた作品には赤いシール——「赤丸」がつけられ、そのまま展示される。
赤丸は「この作品、売れましたよ」というサイン。
つまり、どれだけ売れたかが展覧会を見るだけでわかってしまう。
これはつまり、そのギャラリーの売上や人気が、お客さんの目の前にさらされるということでもある。
それを恐れて、値段の公開を渋るギャラリーも少なくない。
風通しの悪い展示室
アートの展示は、「選ばれし作品たち」だけで構成されている。
さらに、そこで売れなかった作品が、次のチャンスをもらえないまま倉庫にしまわれることも多い。
それはまるで、舞台に立つことなくオーディションで落ちた役者が、存在しなかったかのように扱われるようなものだ。
「この作品、いいな」と思っても、そもそも販売されなかった作品の存在を、私たちは知らない。
ギャラリーのウェブサイトを見ても、情報がほんの少しだけしか載っていないことが多い。
まるで、レストランのホームページに、メニューの一品だけが写真付きで載っているような感覚だ。
これは、インターネットがなかった時代の名残かもしれない。
「本気なら、お店まで足を運べ」という精神。
でも、今は時代が違う。忙しい現代人にとって、わざわざギャラリーを回るのはなかなか難しいことだ。
しかも、アートギャラリーは今や無数にある。
映画館やライブ会場と同じで、「今日はどこへ行こう?」という選択肢が溢れている中で、情報がなければ、比較すらできない。
ブランドか、ただの不親切か
「わかる人にだけわかればいい」という態度は、一見カッコよく見える。
けれど、それは同時に「新しい人を排除する」やり方でもある。
ギャラリーが「ブランドを守るため」と言いながら情報を出さないのは、ファッション業界が「高級感を保つためにモデル名を隠す」と言っているようなものかもしれない。
だが、情報を制限することで守っているのはブランドではなく、「昔ながらのやり方」ではないだろうか。
そして、そのやり方が、顧客の利便性を損なっていることに気づかずにいる。
情報過多くらいで、ちょうどいい
確かに、情報を出しすぎることで起こる問題もある。
「売れていないことがバレる」「値段の違いが比較されてしまう」「ブランドのイメージが薄まる」。
でも、それらを恐れて情報を閉ざしていては、誰も近づいてこない。
かつては、情報が少なくてもやっていけた。
けれど今は、あふれる選択肢の中で、情報を積極的に開示し、他と比べてもらえる勇気を持ったところが、勝っていく時代である。
「情報を出す=丸裸になる」と思っている人もいるかもしれない。
だが本当は、「情報を出す=風通しをよくする」ことである。
風通しがよくなれば、展示室に新しい風が入り、作品の魅力が自然と広がっていく。
そしてその風に乗って、新しい顧客がふらりと入ってくるかもしれない。
情報を閉ざすことで守れるものもある。
だが、情報を開くことでしか得られない未来もあるのだ。
そして、その未来こそが、アート業界が本当に望んでいるものではないだろうか。
Schedule
Public View
4/19 (sat) 11:00 – 19:00
4/20 (sun) 11:00 – 17:00
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F