レシートはただの紙くずか?
レジで受け取るレシートを、あなたはどうしているだろうか。
財布に入れたまま忘れてしまう人もいれば、その場でクシャッと丸めて捨ててしまう人もいるだろう。
ほとんどの人にとって、レシートはただの「いらないもの」。買い物の記録として一瞬だけ役割を果たし、すぐにゴミ箱へと消えていく。
しかし、VIKIは違う。彼にとってレシートは、ただの紙くずではない。
それは、誰かが生きた証の一部であり、消費行動の記録であり、「時間のささくれ」だという。
私たちが忘れてしまう日常の瞬間を、レシートは確かに刻んでいる。VIKIはその微細な時間の欠片を集め、アートへと昇華させていく。
「時間のささくれ」とは、私たちが見落としてしまう日常の断片のこと。
たとえば、ふと見た夕焼けの色、通りすがりのカフェで聞こえた会話、スーパーのレジで手に取った品物――それらはあまりにささやかで、意識の表層に留まることなく消えていく。
それらの瞬間が積み重なり、私たちの日常が形作られている。だが、誰もが気に留めるわけではない。
VIKIはそんな時間の断片を、レシートという誰もが手にしたことのあるメディアを通じて可視化する。
レシートには、その日何を買ったのか、どこにいたのか、どの時間帯にそこにいたのかが記録されている。それは日常のかけらであり、私たちが日々選び取る「小さな決断」の証でもある。
しかし、多くの人はそれに気づかず、当たり前のように捨ててしまう。
VIKIの作品は、そんな「無意識の行動」に問いを投げかけるものでもある。私たちが捨てているのは、単なる紙なのか、それとも過ぎ去る時間なのか?
熱が記憶を蘇らせる – レシートアートの魅力
VIKIの制作方法は、驚くほど独創的だ。
彼は日本全国から集めたレシートを繋ぎ合わせ、巨大なキャンバスを作る。
そして、その上に熱を加えながら絵を描いていく。感熱紙の黒く変色する特性を利用することで、緻密なラインやグラデーションを生み出す。
この手法は、偶然性と必然性の狭間にある。
アイロンやコテの熱が加えられると、紙の上に黒い線が浮かび上がる。
しかし、その線は完全に制御することができない。熱の加減や紙の状態によって、思いがけない変化が起こる。
VIKIはその偶然を楽しみながら、まるで記憶のように曖昧でありながら確かにそこに存在するイメージを作り出していく。
また、VIKIの作品には「情報の捏造」というテーマがある。
レシートには、日付、時間、購入した商品、店舗名など、さまざまな情報が記載されている。それは事実のように見えるが、私たちはその情報を本当に正しいものとして受け止めているのだろうか?
彼は、異なる場所、異なる時間、異なる人物のレシートをつなぎ合わせ、一つの新しい物語を作り出す。
それは、私たちが無意識に信じ込んでいる「正しさ」を揺さぶる行為であり、現代社会に対する批評でもある。
また、彼の作品には「アノニマス(匿名性)」という概念も込められている。
レシートに記された情報は、誰のものなのか判別できない。
しかし、それを眺めていると、誰かの人生の一部を垣間見ているような気分になる。過去に捨てられたはずの「個人の時間」が、VIKIの手によって再構築され、新たな命を宿していくのだ。
ライブペイントのパフォーマンスでは、目の前でレシートの束が「作品」へと変わっていく。
彼の動きとともに、何気なく受け取ったはずのレシートが、まるで記憶の断片のように浮かび上がってくるのだ。その瞬間、私たちは「レシートとは何なのか?」と改めて考えさせられる。
レシートがつなぐ未来
VIKIの作品を目の前にすると、不思議な感覚に包まれる。レシートというありふれたものが、これほどまでに美しく、そして力強く生まれ変わるとは思いもしなかった。
もしあなたが「アートを買う」という経験をしたことがないのなら、VIKIの作品から始めてみるのもいいかもしれない。
彼の作品は、あなたの人生の断片を映し出し、時間の価値を見つめ直させてくれるアートなのだ。