日本の現代アートのトレンド
東京藝術大学の卒展から
先日、東京藝術大学の卒業・修了作品展を観てきた。
大学構内や東京都美術館にはかなり見ごたえのある展示がされていた。
もちろん、日本には数多くの美大があり、東京藝大の卒展だけでトレンドが判断できるわけではない。
また、美大出身者以外で多くの新しい才能が開花しているのは事実である。
それでも、藝大の卒展を観ることで美大を中心とした若手作家の作品の傾向とオークション市場を騒がしているアートでは大きくトレンドが違うことが非常に分かりやすく観察された。
日本ではプライマリー市場とセカンダリー市場では、トレンドが一致しないということだ。
まずは最新のセカンダリー市場のトレンドをあらためて見てみよう。
セカンダリー市場のトレンド
先日開催された1月28日、29日のSBIアートオークションでは落札率99.8％、落札総額10億8千万円と絶好調に終わったようだ。
その中でも特筆されるのが、ロッカクアヤコの8,625万円をはじめ、KYNE 1,000万円、花井祐介 1,380万円など同一ギャラリーの取り扱い作家の落札価格（手数料込）が急激に上がっていることだ。
日本特有のイラストアートが一昨年から価格が高騰している原因として考えられることとして、コロナ禍での株価や仮想通貨の下落で行き場を失ったマネーの一部がアートに流入しているのかもしれない。
また、中国をメインとしたアジアの富裕層が日本のみで流通している一部のイラストアートに人気が集中して買っているということもあるだろう。
すでにギャラリーのプライマリー価格とオークション価格では数倍の差が開いており、実態の評価との乖離がすすめば先行き不透明感が広がることとなるだろう。
また、KAWSやバンクシーといったこれまでも人気のストリートアートに加え、Mr Doodle(ミスタードゥードゥル)といったここ最近になって出てきた英国人のイラストアートもオークションでの人気が高騰している。
コロナ禍による資本家の世界的な金余り現象が、NFTのように素人でも分かりやすいアートの購入へと進んでいるのかもしれないのだ。
美大生のアートのトレンド
上記のようなセカンダリー市場のトレンドを反応して、イラストや漫画のようなタッチの作風、またはストリートアートが美大生で増えているかというと実はそんなことはない。
数年前には、典型的な日本のアニメに慣れている美大生がそのタッチをアートに活かしていることが多数見られたが、今年の東京藝大の卒展においては皆無といってよいくらい減少していた。
「絵師」と呼ばれるその日本独特の漫画のタッチは、美大生からは敬遠される傾向にあるのだろう。
また、「絵師」の描く女の子のイラストはすでに完成された成熟の域に達したものが多く、それ以上のクオリティの作品を現代アートとして新たに世に問うことが難しくなったのかもしれない。
その他の傾向としては、映像作品をメインとして絵画や彫刻と一緒に展示するインスタレーション作品が多かったと思われる。
これまでは、映像単体では評価が厳しい作品が多かったのだが、他と作品との調和を図ることで全体としての見せ方を工夫している作家が増えているように感じられた。
アートが多様化し、新しい方法を模索しようとする若い作家の姿勢が垣間見られるのが今の傾向だと言ってよいだろう。
藝大の卒展の中にはタグボートの取り扱い作家である後藤夢乃や、友沢こたお、VIKIといった人気の新進アーティストの作品が展示されており、作品の持つポテンシャルでは他を圧倒しているように思えた。
特に、後藤夢乃の高さ3メートル、横10メートルの巨大な壁画にように見える作品は圧倒的な存在感であり、美術館で所蔵されるクラスのクオリティであった。
こちらの3名の作家は、3月に開催されるTAGBOAT ART FAIRにも個展ブースで出展されるので大いに期待していただきたいと思う。
以下の写真は上から、後藤夢乃、VIKI、友沢こたお
3月に始まる二大アートフェア
さて、アートフェア東京と同時期の3月11－13日の東京はタグボートアートフェアも入れてアート一色の3日間となる。
昨年タグボートは日本初の単独ギャラリーによるアートフェアを開催したが、今年は更に規模を2倍に拡しての開催だ。
2フロア3060平方メートル 、111名の取り扱い作家の個展となる。
タグボート取り扱い作家111名以上によるアートフェアはオンラインでも販売
出展するタグボートの取り扱い作家111名には、それぞれ個展サイズのブースが提供される。
選ばれたアーティストの渾身の作品約2,000点が一堂に会し、それぞれの個展は現地でもオンラインでも買える。
今年3月はアート東京とタグボートアートフェアによる2大アートフェアの競演となるので、ぜひ期待していただきたい。
■開催概要
2022.3.11 (金) ～ 2022.3.13 (日) ※11日はプレビュー
