今年は阪急メンズ東京にギャラリーをオープンしたこともあり、株式会社タグボートはオフィスのある人形町とギャラリーのある銀座との2極体制となった。
それぞれの拠点は地下鉄1本でつながっており、ドア・ツー・ドアで20分の距離だ。
とは言いながらこの距離の問題は大きく、離れていることでコミュニケーションが十分に取れないことが多い。
銀座のギャラリーは百貨店の店舗という形で展覧会を開催し、お客様を接客することがメインの仕事だが、人形町のオフィスはオンラインで販売するためのコンテンツ作りや作品情報の入力、受発注といった一連の流通業務を行っている。
ギャラリーで販売中の作品はウェブでは販売しないので、実はそれぞれが独立した形として運営されている。
そうなると同じ会社でありながら、それぞれの意思の疎通が希薄になることもありえる。
組織というのは人が多くなると保守的、官僚的になりがちだ。
だからこそ会社として共通した価値観を持ち、同じベクトルを向いていることを確認しあうことが重要であると思っている。
特にギャラリーの中にいて、日々お客様と接客する中で忘れがちなマインドセットが大切だと感じた。
そこでタグボートでは「tagboat way」というものを作って、会社としての考え方を全員に共有してもらうこととした。
これは社内だけでなく、社外にも公開している。
海外だと、ヒューレットパッカード社の「HP Way」やリッツカールトンの「クレド」が有名だ。
日本の会社にも社訓のようなものがあるが、どうみてもそれが浸透している気がしない。
なぜならそこには、「顧客第一主義」とか、「社会の発展へ貢献」のようなよく似た文言が多く、経営者の心から発した言葉のように感じられないからだ。
誰が聞いても心地よい言葉は誰の心にも残らないものである。
今の世情は、少しでも世の中の道理からは違うことをする人を見つけたら、ネット上で徹底的に叩かれる傾向にある。
以前はそれを無視できたのであろうがが、組織が保身に流れていくとそのような世論に抵抗できず、ありきたりの表現しか世の中に公表できなくなっている。
アートというのはそのような世論に対するアンチテーゼだったり、誰もやらないような尖った表現をすることが敢えて許されるものであるはずだ。
タグボートはそのようなアートを作るアーティストの立場を守り、逆に支援していく存在として、常にアーティストの側に立った考え方をしていくこととしたい。
その考えに基づいて作ったのが、以下のtagboat wayである。
● アートで食べていけるアーティストの数を増やすことがミッション
● アーティストの世界観を多くの人に共感させるため誰でも分かりやすく伝える
● 競争はしない。差別化とかではなくて、他社とは完全に違うことをする。
● 常識を疑おう、前例はゴミ箱に捨てよう
● Think Straight, Talk Straight
● 強いものや賢いものよりも、変化に柔軟なものが生き残る
我々にとって顧客は大事な存在であるが、それよりも重要なのはアーティストだ。
アーティストがあってこそのビジネスであると考えており、それを普及させるためには同時に彼らを支えていかなければならない。
一般のギャラリーのように数名のスター作家を作ることにはまったく興味がなく、重要なミッションは食べていける作家の「数」を増やすことだ。
数を追うことが出来るのはネットを主戦場としているタグボートの強みであり、そこはほかとは違う合理的な運営が可能なのだ。
また、会社という存在よりも、個人の生活、ストレスのない仕事を優先しているのもtagboat wayの特徴だ。
周りの空気を読んだりとか、会社への忠誠などは一切必要ない環境を作っていきたい。
古い体質から変われないのは会社のせいではなく、そこで働いている人たちの意識なのだと考えている。
我々は常にベンチャーであり、自分たちの意識を常に柔軟に変化させつづけけなければならない。
柔軟に自らを替えながらも、その中で自分がやりたいことに「没頭」できる環境が幸せな生活を生むのだと考えている。
これは組織志向から人間志向、顧客主義から作り手主義 という考え方が元となってるので、合理的な資本主義から遠ざけてるように思われるかもしれない。
しかし人間尊重の考えは合理性を超越した力を発揮するし、それこそがアートの会社だと我々は信じているのだ。