記憶の中の少女たち

スガミカの作品と出会うと、ふとした瞬間に感じた違和感や記憶の断片がよみがえる。

彼女が描く少女たちは、一見すると静かで無機質な表情をしているが、その背後には何かを秘めているように感じられる。

過去の作品では、銅版画の繊細な線を活かし、雁皮紙（がんぴし）を用いたコラージュ技法を駆使していた。

版画ならではの硬質なラインと、コラージュの曖昧さが絶妙に融合し、まるで古びた写真のような質感を持つ作品を生み出していた。

しかし、近年の作品では、ペインティングへと移行し、アクリルやオイルによるよりダイレクトな表現が目立つようになってきた。

ペインティングに移行したことで、スガミカの世界観には新たな要素が加わった。

版画のように線で輪郭を切り取るのではなく、絵具の重なりや筆致の勢いによって人物や背景が形作られている。

これにより、以前の作品にあった静謐さと同時に、より感情の揺らぎや、即興的なエネルギーが画面に宿るようになった。

 儚さと毒が共存する劇場

スガミカの作品には、どこか「舞台的」な空気がある。

少女たちは無表情ながら、確かに何かを演じているように見える。

玩具や人形といったモチーフが頻繁に登場するのも、その演劇的な構成の一部なのかもしれない。

以前の版画作品では、静的な構図が多く、鑑賞者に時間をかけてじっくりと読み解かせるような性質があった。

しかし、ペインティングへと移行したことで、より動的な要素が加わった。筆致の勢いや色の重なりが、登場人物たちの感情を仄めかし、作品に新たなリズムを生み出している。

また、彼女の作品には独特のユーモアと毒が共存している。

例えば、愛らしい人形のような少女が、どこか不穏な表情をしていたり、背景に違和感のあるオブジェクトが配置されていたりする。

このような要素が、作品を単なる「可愛い」ものではなく、どこか危うさをはらんだものへと変えている。

作品を手にするということ

アートを買うことは、単なる所有ではなく、作家の世界観を自分の生活に迎え入れることだ。スガミカの作品を手にするということは、その演劇的な空間の一部を日常に持ち込むことでもある。

彼女の作品は、単に美しいだけではない。どこか不可解で、時に観る者を不安にさせる。

しかし、それこそが彼女の魅力であり、彼女の作品を持つことで、日常の風景が少し違って見えるようになるかもしれない。

もし、静かに語りかける作品を求めているなら、スガミカの作品はぴったりだろう。

彼女の少女たちは、毎日同じ表情でこちらを見つめているようでいて、実は日々違う何かを伝えてくれるのだから。