タグボートの海外戦略についてはここにきて大きな転換期を迎えている。
これまでタグボートは成長するアジア市場にターゲットを向けていたのであるが、アジア市場についての脆弱性を感じているからだ。
まずアジアの現代アート市場の現況について考えてみたいと思う。
現在のアジアのアート市場は間違いなく中国が牽引している。
その市場規模は日本の40倍の2兆円ほどと言われており、特にこの20年で急成長しているのだ。
20年ほど前までは、現代アートのギャラリーがほとんど皆無に近かった中国市場が拡大している主な要因はセカンダリー市場が活況であるということだ。
中国のアート市場はプライマリーよりもセカンダリー市場が圧倒的に大きい。
セカンダリー市場で2017年に一度世界のトップに立った中国。
しかし翌年2018年に地力のあるアメリカが18%増の58億ドルの売り上げで巻き返し世界最大の市場に復活したし、世界の全売上高の38%となった。
中国は順位を落として2位となったものの45億ドルを記録して後に続いている。
世界最大のオークションハウスの2018年の売上ランキングを見てみよう。
トップのクリスティーズは50億ドル、対するサザビーズは39億ドルで2位。
北京にある中国のポーリーオークションが6億5400万ドルで3位。
フィリップスは前年39%増と大幅アップして6億5300万ドルとなったものの惜しくも届かず、第4位となった。
6億600万ドルを売り上げた中国のガーディアンがそのあとに続く。
つまり、世界のオークションハウスのベスト5のうちすでに中国の会社が2社を占めている。
それだけでない。2000年にZhang Daqianが唯一の中国人アーティストであったのに対し、17年後の2017年には計16名の中国人がランクインしているのだ。
金融市場のように、効率的かつ流動的で、透明性をもつアートのセカンダリー市場であるが、一方で作家個別にみると中国市場の危うさを感じるのだ。
例えば、以前からの日本の「かわいい」系のアート作品や超絶技巧などのアーティストが一部もてはやされたりしている。
アジア特有の分かりやすいアイコンの作品や、欧米ではまだ評価されていないアートが独自の指標で人気をとってるのが中国およびアジアのセカンダリー市場の特徴だ。
そこには美術館や評論家、国際的な美術展の評価などが加味されておらず、アジア圏のセレブリティが所有することで人気が上がったりしている。そこから端を発した作品が投機的な意味で多くの購入者を呼び、セカンダリー市場が過熱しているのだ。
そういう意味では、アジアのアート市場は欧米に比べて成熟しておらず、欧米の追随もしくは独自のスター製造機となっている。
そのためアジアのセカンダリー市場のメカニズムに対応したプライマリー作品が二次マーケットを意識しすぎたアートの大量生産へつながっていくのではないかと我々は危惧している。
アートは作家個人の思いを創造性を表現したものであり、投機ばかりに目が向くアート市場はいつの時代もバブルが発生するのだ。
今週から始まる上海のアートウィークでは、ART021や、Westbund Art and Designといった国際的かつ大型のアートフェアが開催されるほか、パリのポンピドゥーセンター開館やチームラボのミュージアムも始まる。
多くのアートコレクターやアートファンが集まるこの時期に、中国のアートシーンがどのように変化するのかを見ておきたい。
それをじっくりとこの目で焼き付けたうえで、ニューヨークを中心とした米国のアートシーンにどのように対峙していくかを検討したいと思う。