欧州で「フリーズ・ロンドン」と「アートバーゼル・パリ」、そして上海で「ART021」と「West Bund Art & Design」という国際的なアートフェアを今年10月、11月と訪問した経験を基に、日本のアート市場がどのように世界で戦っていくべきかを考えたい。
欧州と中国、それぞれのアート市場には異なる特徴がある。欧州では、トップギャラリーの売上は安定しているが、中堅以下のギャラリーは苦戦している。
一方、中国市場はゼロコロナ政策の影響を受けて全体的に厳しい状況が続いていたが、政策終了後は市況が回復する兆しが見られる。
中長期的には、中国市場の成長は再び注目されるだろう。
特筆すべきは、中国市場におけるアートフェアが単なる商業的な場を超え、富裕層の社交場としての役割を担い始めている点である。
上海のWest Bund Art & Designでは、来場者の装いや会場の雰囲気が非常に華やかで、ロンドンやパリに近い洗練された世界を感じた。
これは、若い世代がアート市場を支え、アートそのものが生活の一部として受け入れられている証左と言えるだろう。中国の年齢構成が日本よりも平均10歳も若く、経済成長が続く中で現代アート市場の成長が期待される背景には、こうした文化的・社会的な基盤がある。
しかし、欧州や中国での市場の競争は既に熾烈であり、日本のアート市場がこのフィールドで戦うには大きな課題がある。
まず、日本のアート作品は価格設定が欧州や中国よりも低く、ブランディングが遅れている。
特に、アートフェアというプラットフォームでは、これらの差が如実に表れる。
国際的なアートフェアで尖った部分を見せて目立つには、作品の質だけでなく、ギャラリーとしてのブランド力が不可欠なのである。
さらに、アートフェアの運営形態はグローバルでは大きく変化しつつある。これまでリアルイベントのみに重点が置かれていたが、オンラインの重要性が増している。
しかし、これまでも多くのプラットフォームを通じてオンラインのアートフェア開催を試みたものの、成功例は少ない。
やはり、オンラインとリアルを融合させた「ハイブリッド型」の戦略が必要だ。
実際、欧州や中国の大手ギャラリーでは、リアルだけでなくオンライン販売を巧みに組み合わせた展示が増えつつあり、顧客との接点を最大化する取り組みが進んでいる。
日本のギャラリーが取るべき戦略は何か。
それは、オンラインとリアルの融合を基盤としつつ、これまでアート市場を繋いできた点と点のネットワークを面的な展開に変えていくことにある。
各国のアートフェアに出稼ぎ的に出展しているギャラリーがあるが、マーケティング施策として考えると決して効率がよいとはいえない。
各フェアの会期は4日程度と会期が短く、現地にギャラリーがない限りは翌年のフェア開催まで展示ができないかだ。
各アートフェアでのネットワークをつなげるためにはオンラインによる面的な展開がこれからは必須となるだろう。
さて、ロンドン、パリ、上海のように富裕層の社交場を提供する場づくりを学び、日本のアートが単なる商品ではなく、文化的側面を持つことを明確にする必要があるだけでなく、若年層をターゲットにした取り組みも重要だ。
欧州や中国と比較して、日本は高齢化が進む一方であるが、若い世代の購買力が全くないわけではない。
若年層をアートに引き込むためには、ファッション、デザイン、音楽などとのコラボによるブランディングをすることでアートの購入を普通にできる仕組みを構築することが急務である。
また、国内市場だけでなく、欧州や中国市場に向けて積極的に発信するためのマーケティング力を高めるべきだ。特に、SNSや動画コンテンツを駆使したデジタルプロモーションが鍵を握るだろう。
結論として、日本のアート市場が国際舞台で戦うためには、欧米並みの価格設定、そのためのブランディング、オンライン戦略、そして若年層へのアプローチという複合的な戦略が必要である。
欧州や中国の成功例から学びつつ、独自の強みを活かした取り組みを進めることで、日本のアート市場も成長のチャンスを掴むことができるだろう。
国際的なアート市場の流れを受け止め、そこに日本独自の価値をどう付加していくか。これこそが、今後の日本のギャラリーやアーティストが問われるべき課題である。