「作品がついに完売しました!」と鼻息荒く語るアーティストがいる。しかし、私は心の中でこう呟く——『で、次は?』と。
アート作品が一時的に売れることは珍しくない。タイミングが良かったり、一部の熱狂的なファンが他の購買意欲を刺激したり、マーケット全体のムードに乗じた結果だったりする。
しかし、その一瞬の成功に酔いしれてしまうと、次の一歩で躓くことになる。
ラーメン屋とアーティストの共通点
ここで、ラーメン屋の話をしよう。新しくオープンしたラーメン店が駅前でビラを配り、オープン記念で半額セールを打ち出したとする。行列ができる。SNSで話題になる。しかし、数ヶ月後にはその行列は消えてしまうことが多い。なぜか?
答えは簡単だ。「売ることはできるが、売り続けることは難しい」からだ。
一時的なプロモーションで人は呼べるが、コスパの良さ、味のクオリティ、継続的なメニュー開発といった本質的な価値がなければリピーターは生まれない。
アーティストもこれと同じだ。単発のヒットで満足してしまうと、次に何も残らない。
着火剤だけでは炎は続かない
アートマーケットで成功するには、まず人気に火をつける必要がある。だが、火をつけただけではすぐに消えてしまう。重要なのは、その炎を絶やさないために、絶え間なく空気を送り続ける努力だ。
具体的には、適切な価格設定(Price)、魅力的なプロモーション(Promotion)、効果的な販売チャネル(Place)、そしてもちろん優れた作品(Product)の4つの要素、いわゆるマーケティングの4Pが不可欠である。
多くのアーティストは「作品(Product)が良ければ売れるはずだ」と考えがちだが、それは半分だけ正しい。実際には、他の3つのPが揃って初めて、マーケットで持続的に成功するのだ。
過信と迷走の罠
売れた経験があるアーティストほど、自分の実力を過信しやすい。
しかし、重要なのは冷静に市場を分析すること。顧客の声に耳を傾け、どんなプロモーションが効果的だったのか、なぜ売れなかったのかを検証することが求められる。
ここで注意したいのは、すぐに作風を変えてしまうアーティストの存在だ。
プロモーションが十分でない段階で方向転換するのは早計である。
一方で、あらゆる施策を試みたにもかかわらず、同じ戦略を繰り返すのは「馬鹿の極み」だ。このバランス感覚が、アーティストとしての持続的な成功を左右する。
ギャラリーの役割とパートナーシップ
アーティストにとって、ギャラリーは単なる販売窓口ではない。市場のフィードバックを収集し、プロモーション戦略を共に考えるパートナーであるべきだ。
自分の作品がよいという理由だけで売れているといった勘違いは正すべきだし、プロモーション施策が十分でないと思えばギャラリストと相談すべきなのだ。
もし、そのギャラリーが間違った施策を繰り返しているなら、遠慮なくパートナーを変えるべきだろう。
終わりに——自分の火を灯し続けるために
一瞬の成功は誰にでも訪れる。しかし、その成功を持続させるためには、戦略的な思考と絶え間ない努力が必要だ。
アートの世界で「売れること」はスタート地点に過ぎない。本当の勝負は、その後にどう「売り続けるか」にあるのだ。
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