海外向けはプラットフォームビジネスは成り立たない
前回のコラムでは地道に海外のアートフェアに出展することで現地のファンを獲得することが重要であることを説明した。
アートは消費財と違うので、オンライン上に作品を見せるだけで簡単に売れるものではない。
どちらかというと、アーティストの世界観を知ってもらいファンになる人を増やすことで販売を拡大することができるのだ。
とはいいながら、そのような地道なファン獲得活動が必要である一方、同時にネットの活用というものが必要であることは言うまでもない。
アートのビジネスはECのプラットフォームビジネスではなく、芸能プロダクションのマーケティング手法のように現地のルールに沿った形で個別にファンを獲得することが重要なのだ。
例えば、現地のテレビ、雑誌、ネットメディアなどを活用して頻繁に作品を見せる機会がないと販売が成り立つものではない。
その中でもこれからはネットメディアが重要であり、特にInstagramをメインとしたSNSがアートのプロモーション方法を変えることにもなるだろう。
すでにInstagram経由でアーティストに作品の依頼が直接できる時代であり、SNSのフォロワー数と投稿のインパクトが大きく販売に影響を及ぼすだろう。
現地での展示はマストである
ギャラリーが作家や作品に関する情報を事細かに現地の言葉でSNSで発信すれば、バーチャルでのプロモーションも一部可能ではあるが、やはり本物の作品を見せる機会は絶対に必要だ。
現地でギャラリースペースを借りて展覧会形式で作品を見せることは、展示する作家にとっての満足度は高いが、実際にはギャラリーの顧客である数百人が見るだけで終わることもあり、継続的な顧客獲得につながらなければ十分なプロモーションとまでにはいかない。
そういった意味では、アートフェアまたは多くの人が見に来る展示スペース、できれば美術館がプロモーションには最適である。
しかしながら、例えばアートフェアに出展する場合、他にも出展する百軒以上のギャラリーと数千人のアーティストをライバルとする戦いとなる。
来場者にフェアの会期だけで個別の作家の世界観やコンセプトまでをブース内で理解してもらうことは実質的には不可能だ。
アートフェアだけで一気に作家のファンとなってもらうには無理があり、出展する前に、まずは現地の方に作家や作品をネットメディアを経由して見て、知ってもらう必要があり、その広報の絶対量が重要となる。
もちろん、現地で展示をする同時期には、SNSやその他メディアなどを一堂に集めることで露出を高め認知度を短期間にあげることも必要である。
国内での評価、実績
もう一つ重要なこととして、欧米のマーケットからの評価を得るには日本での評価が最低限必要となることだ。
つまり、日本では見向きもされないアート作品を現地で高く評価してもらえる確率は低く、成熟した欧米市場では出たとこ勝負で評価がされるほど簡単なものではない。
日本国内でどのように評価されたのか、どのくらい販売実績があったか、といった内容までを現地のメディアに伝えることは必要である、見たこともないアート作品を展示しただけでいきなり専門家に見てもらえるようなものではないのだ。
アート専門家やメディアには国内外から多くの売り込みがあるので、やはりある程度の実績を最低限の指針した上でないと作品を見てもらえることにつながらないのだ。
ということは、国内で実績があって初めて欧米で勝負できるのであり、そこまでの時間の捻出が難しいのであれば、最初から現地に根を張ってオフィスを構えるくらいの必要があるのだが、それができる資本力があるところは少ないだろう。
ここまでのところをまとめると、アートを海外で販売するためには
1)国内である程度の評価と販売実績を作る
2)事前にSNSや現地のネットメディアを介して現地の言葉で発信
3)現地のアートフェア、人が集まるスペースなどで展示
4)引き続き、2)と3)を繰り返す
ということになるだろう。
いずれにしても、ネット上で話題になってもそれを見せる場所がアート作品の販売には必須であり、常にセットであることを理解しなければならない。
そうすることで作品の認知度も相乗効果的に一気に広がることになる。
ネットの活用はそのスピードを速め、対象顧客を増やすことに効果的であるが、一足飛びにできる手段ではないのだ。