コロナ禍において、海外での販売をメインとしていたギャラリーは国内回帰をせざるを得なくなったのだが、それが最近の国内アート市場が盛り上がり始めた要因の一つにもなっている。
海外のアートフェアなどでこれまで売上を稼いできたギャラリーにとってはコロナ禍において背に腹は代えられない状況となり、国内の市場開拓がマストとなったわけだ。
その一方で国内だけでしか通用しないようなガラパゴス化されたアート作品が出現することにもつながっている。
イラスト的なアートが昨今の国内マーケットの高騰をリードしているのだ。
そのようなトレンドを今だけの流行に過ぎないと見る人もいるが、そんな中でもガラパゴスの殻を打ち破り世界へと向かうアート作品も出てくるだろう。
いずれにしても、世界の1%にも満たないあまりに小さすぎた日本のアート市場であるが、ここに来て急に拡大し始めたのは事実である。
イラスト的なアートが火付け役となり後押しをしているが、海外の中でも特に中国を中心としたアジアのアート市場との格差は簡単に埋まるものではない。
逆に言うと、海外市場は国内の100倍以上あるので販売する方から見ると、今後は海外へと再び目を向けることで販売が広がる伸びしろもあるということだ。
さて、とはいうものの、海外のアート市場、特に欧米で評価を獲得するのは一筋縄でいけるものではない。
現地でのギャラリー、評論家、コレクター、オークションハウス、美術館と絡んでいきながら作家の評価を上げていかなければ簡単に売れるわけではない。
さて、ではどのようにして海外向けに作品を販売するのかについて、今回は二週にわたって考えていきたい。
まず一つめとして、英語翻訳された販売サイトに作品をアップすれば自動的に売れるものではないということだ。
アートを海外で売るときに作品に対する信用がなければ販売は難しいのが現実だ。
売れたとしてもインテリアとしてのアートであり、作品に対する信用や評価によるものではない。
つまり、長期的なファンがつかないので高い頻度で買ってもらうことは難しくなる。
海外向けのネット販売利用については最近は越境ECがブームのようになっているが、現実は厳しい。
なぜかというと我々が実際に海外の商品を買う場合にも自国のサイト経由で購入していることがほとんどだからだ。
例えば、韓国製のスキンケア商品を買う人がいて、その人はおそらく楽天やYahoo!、Amazonなど国内のウェブサイトに出品している業者から買っているはずだ。
海外のサイトを利用する場合、どこのサイトが信頼性があるのかが分からないため、誰も知っているショッピングサイトモール経由から買うのがリスクを避ける意味でも普通だからだ。
さて、世界最大のEC販売国である中国でアートをネットで売る場合のことを考えてみよう。
中国人は日本製の電化商品やアパレルなどをネット経由で買っているが、それは主にTmall(天猫)というサイトからであることが多い。
海外の大手メーカーや代理店が、中国に対して直接販売するときに、Tmallは中国の小売業の許可がなくても販売できるので世界各国のメーカーはこれを利用することとなる。
ただし、Tmallで販売するには審査が必要で有名ブランドや大企業のみ出店可能だからこそ信頼度が高く、偽物や非正規品を排除していることから、クオリティーと安心感を求める中国人はTmallから買うことになる。
中国のB to C(企業が個人市場に販売)モデルのECにおいては、Tmallが全体の50%を超えるシェアで、C to C(個人が個人市場に販売)モデルでは同じアリババ・グループであるタオバオ(淘宝網)が80%以上のシェアとなっている。
B to Cモデルで、Tmallに次ぐEC2位が、WeChatを運営するテンセント・グループのJD.com(京東商城)であり、この2大モールで全ECの84%を占めている。
確かにオンラインは国と国との垣根を超えることができるのだが、それはスペックだけで購入できる家電製品とは違い、実際に目で見たことも聞いたこともない無名のアートを直接ネットから買うことはまだハードルが高い。
つまり、現地のメディアを通して多くのアーティストを個別にプロモーションしていかなければ現地での認知や信用獲得にはつながらないのだ。
海外でファンを作るには、現地の人にメディアや展示を通して何度も作品を見せる必要があるし、そのような草の根活動なしに売れるものではない。
だからこそ、国内のギャラリーが自社のアーティストを海外でプロモーションするにあたり、海外でのアートフェアという信頼度の高い見本市に何度も出展することでコツコツとファンを増やしているのだ。
つまり、ギャラリーへの信用度は出展するアートフェアによって担保されるということになる。
そういったアートフェアの場で出展するギャラリー同士が出会って、自国で販売したいアーティストの相互取り扱いを打診したりするのだ。
このような地道な現地でのプロモーション活動の積み重ねは確かに重要であるが、ネットの時代にはよりスピードを重視した対応が望まれ、我々は先を見据えた海外での販売を考えていかなければならない。
それについては、次週以降、今後の海外での販売手法についてというテーマで言及していきたいと思う。