
前回のコラムでは、初心者が「目利き」に頼らず、ルールに従って20〜30点のポートフォリオを組むことの重要性をお伝えした。
では、実際にコレクションを始めるにあたって、知っておくべき「業界のルール」とは何だろうか。
アート市場には、一見すると不合理に思える独自のルールが存在する。
しかし、それを知ることは一部の特権階級が得をするためではない。むしろ、ルールを正しく理解し、守ることで、誰にでも「一生ものの作品」を手にする公平なチャンスが開かれるのである。
今回は、アートを単なる「モノ」ではなく、共に育てる「資産」にするための大切な常識についてお話ししたい。
「投機」と「投資」を混同してはいけない
まず明確にしておきたいのは、アートにおいて購入後すぐに転売して利益を得ようとする行為は「投資」ではなく、単なる「投機」であるということだ。
ギャラリーの最大の使命は、作家の「価格」と「ブランド」を、数十年かけて着実に上げて守り抜くことにある。
そのため、彼らが最も警戒するのは、作家のキャリアを無視して短期的な利益を追う「投機筋」の存在だ。
もし、まだ評価が定まっていない若手作家の作品が、購入直後にオークションに出されたらどうなるか。
そこで不落札になったり、販売価格を下回る安値がついたりすれば、その記録は世界で誰もが見れるデータベースに残り、作家の将来に致命的なダメージを与える。
そのため、多くのギャラリーでは「購入から数年間は転売しない」という約束を重視する。
このルールを破る投機的な動きは、ギャラリーからの信頼を失い、結果として将来の貴重な案内を自ら断つことになってしまう。
「中抜き」が招く、作家とコレクターの共倒れ
作家と仲良くなると、つい「ギャラリーを通さずに、アトリエで直接買いたい」と持ちかけたくなるかもしれない。
しかし、これも避けるべき大きなタブーだ。
ギャラリーは、作家の代わりに世界中でプロモーションを行い、美術館での展示を働きかけ、市場を耕す「エンジン」である。
この機能を無視して「中抜き」をすることは、エンジンの燃料を抜くようなものだ。
直接販売を容認した作家は、ギャラリーから契約を打ち切られ、プロフェッショナルな展示機会を失うこともある。
結果として作家の価値向上は止まり、コレクターが持つ作品も資産価値を失う。
購入者と作家がギャラリーの機能を無視すると、手痛いしっぺ返しを食らうことになるのだ。
セカンダリー市場という「残酷で公平な鏡」
一方で、オークションに代表される「セカンダリー(二次流通)市場」を正しく理解することも不可欠だ。
オークションは、作家の「本当の市場価値」を世に知らしめる残酷で公平な鏡である。
買い手が熱くなりすぎて、実際の評価を超えた「バブル価格」がつくこともある。
そのレコード(落札記録)が後の価格高騰につながることもあれば、逆にバブルが足かせとなって価格が暴落する危険もある。
セカンダリー市場の価格を鵜呑みにするのは危険だが、そこには需要と供給の明確な物差しがある。
オークションでの高額落札は、作家の人気を世界に示し、マーケットを広げる強力なエンジンになる。
セカンダリー市場があるおかげで、作家の価値が世に示される契機が生まれるのだ。
作家自身が数年間の転売禁止の意味からオークションのような二次市場に悪いイメージを持っていることが多いが、そんなことはないのだ。
セカンダリー市場の仕組みを作家に正しく理解させ、マーケットを広げるきっかけに繋げることも、ギャラリーの重要な仕事である。
「伴走者」こそが、真のチャンスを手にする
アートの世界で最高の作品を手にする秘訣は、至極シンプルだ。それは、ギャラリーとの間に「誠実な信頼関係」を築くことである。
作家の展覧会のたびに足を運び、成長を共に見守りながら購入を続ける「伴走者(パトロン)」としてのコレクター。
ギャラリーはこうした良客を「作家を一緒に支えてくれるパートナー」として高く評価する。
その信頼があるからこそ、素晴らしい作品との出会いのチャンスが優先的に巡ってくるのだ。
短期的な利益を追う「投機」や、「中抜き」という小細工は、長期的には自分の首を絞めることになる。
ギャラリーを味方につけ、マーケットのルールを尊重しながら作家を支えること。
その「信頼」という見えない資産を積み上げることこそが、結果としてあなたのコレクションを、将来的に大きな価値を持つ盤石な資産へと変えるのである。
今回、あえてこの「業界の掟」を明文化したのは、誰もが正しくマーケットに参加し、健全にアートを楽しんでほしいと願うからである。
ルールを知ることは、あなた自身と、あなたが愛するアーティストの未来を守ることに他ならない。
タグボート代表の徳光が出演のYouTube番組「のらぎゃるおーかの現代アート学」
先週に引き続き第二弾でも現代アートについて色んなことを面白おかしくお話をしていきます!
グループ展「Layers」
2026年1月29日(木) ~ 2月17日(火)
tagboatは、現代アーティスト・月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATAによる3人展「Layers」を開催いたします。
本展は、記憶や時間、物質や情報がどのように重なり、操作され、可視化されているのか——3名のそれぞれ異なる素材や表現方法によって、“層(レイヤー)”というテーマを多角的に提示します。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
ARTIST
月乃カエル、都築まゆ美、HARUNA SHIKATA