レンタルギャラリーとコマーシャルギャラリー
ギャラリーにはレンタルギャラリーとコマーシャルギャラリーの二種類がある。
日本の場合は約8割がレンタルギャラリー(貸し画廊)で、2割がコマーシャルギャラリー(企画画廊)と言われている。
逆に欧米ではレンタルギャラリーは少なく、そのほとんどはコマーシャルギャラリーだ。
外から見るとその違いが分かりにくいが、簡単に言うと、レンタルギャラリーは不動産賃貸業で、コマーシャルギャラリーはアート販売業だ。
レンタルギャラリーにとっての顧客は、そのスペースを借りるアーティストであり、アーティストが払うレンタル料で稼いでおり、アートの売買は彼らのビジネスにあまり関係ない。
一方、日本ではマイナーな存在のコマーシャルギャラリーは、アーティストからお金をとらずに、すべてはアートの売買で稼いでいる。
欧米はアート市場が大きいので、コマーシャルギャラリーが多くても成り立つのだが、日本ではマーケットが小さいので、アーティストからお金をとるレンタルギャラリーがメインとなってしまうのだろう。
さて、コマーシャルギャラリーは展示するだけで簡単に作品が売れるわけではないので、作品が売れるように作家のプロモーションをすることが主な仕事だ。
そういう意味では、コマーシャルギャラリーとはアーティストの芸能プロダクションに近いものだと言ってよいだろう。
ギャラリーの存在は、作品を展示してそれを売買する場だけではない。アーティストのセレクト、集客の仕組み作り、アーティストの世界観を伝えるプロモーションなど、マーケティングに関する仕事こそが今のコマーシャルギャラリーの役割なのだ。
ギャラリーと芸能プロダクションの共通点
ギャラリーが行うアーティストのプロモーションは、芸能プロダクションが自社のタレントにするのと目的や方法が異なるものの、以下のように共通点が多い。
1)認知度の向上とブランディング:
ギャラリーや芸能プロダクションの両方に共通するプロモーションの目的は、その人物や作品の認知度を向上させ、顧客に対する影響力を高めることである。
また、アーティストもタレントも独自のブランドを形成し、そのブランドの価値を高めることが重要である。これには、差別化、パーソナリティ、技術、スタイルなど様々なことが含まれる。
また、アーティストもタレントも自身のブランドと作品を広く普及させるためには、各種メディアとの関係を効果的に管理し、活用することが必要である。
従い、ブランディングと認知度の向上を同時に行うことで相乗効果を上げることが重要である。
2)戦略的なプロモーションとネットワーク:
アーティストとタレントの両方とも、経済的な価値を創出するためには、マネジメントと戦略的なプロモーションが必要である。
それぞれの具体的なプロモーションの戦略や方法はアーティストやタレント、それぞれのマネジメントの戦略によって違ってくるだろうが、業界内の他のプロフェッショナルと関係を築き、そのネットワークを利用して機会を創出することが求められることは同じだ。
また、アーティストもタレントも自身のSNSを活用して自己プロモーションを行うことが増えており、セルフプロデュースが当たり前の時代になりつつある。
ギャラリーの新しいビジネスモデル
芸能プロダクションは対象とされるファンが広いことで、認知度向上には大衆化を目的としたプロモーションが有効であった。
それに対し、ギャラリーは作家の世界観を深堀りするなどで一部の富裕層をターゲットとしているという違いがあった。
しかしながら、アート市場の歴史のトレンドとして、富裕層のみを対象とした時代から、今ではアートの民主化が進んでいる。
より大衆の耳目を集めるアーティストの人気が販売価格の上昇につながっていくのは事実である。
高くなりすぎて買えないけど、作品は見たいというファンに対して、展示した作品に「入場料」とることで大衆からの利益を獲得できるモデルが、美術館だけではなくギャラリーでもこれから確立していくだろうと思われる。
ギャラリーが圧倒的な人気のアーティストの作品を展示して入場料収入を得るビジネスモデルは、欧米のメガギャラリーではすでに始まっている。
例えば、特定のアーティストの大規模な回顧展やブロックバスター展は、そのようなビジネスモデルだ。
しかし、このビジネスモデルが全てのギャラリーにとって適しているわけではない。
圧倒的な人気があるアーティストの作品を手に入れることは困難であり、また、大規模な展示はそれだけの広さのスペースを必要とするのは言うまでもない。
以上の理由から、入場料ビジネスは一部のメガギャラリーにとっては有効である一方で、全てのギャラリーがこのビジネスモデルを採用することは難しい。それでも、特定の展示に対して入場料を設定することは、ギャラリーが収入源の一部とする以外に一定の顧客を選ぶことができるメリットもあると言えるだろう。
ギャラリーは先行する音楽や芸能プロダクションのビジネスモデルを観察し、そのよい部分をアートの業界にも積極的に取り入れる柔軟さと、スピード感がこれからは望まれるだろう。
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