リッチマン・フィニアンが作品をつくり始めたのは、2021年頃のことだった。
それ以前の彼は、自分の存在価値を深く考え、社会の中での居場所を探し続けていた。
「幼い頃から、自分の感覚がどこか普通ではないと感じていた。周りが何気なくできることが、私には難しく感じることもあった。
でも、違うということは悪いことじゃない。結局、自分の内側にあるものを表現するのが一番しっくりくると思った。」
彼が選んだ表現方法は、彫刻と絵画の融合だった。
まず、粘土を手に取り、無意識のうちに形を作る。指先が過去の記憶を辿るように動く。それはまるで、心の中に埋もれた「もう一人の自分」を引きずり出す作業のようだ。
「作品の題材は、私が別途制作した彫刻です。
バロック時代の西洋絵画に影響を受けていますが、それと同じくらい日本のアニメ文化からの影響も受けています。
私は日本とイギリスの間で育ち、それぞれの美学に共感してきました。バロックの劇的な明暗と、アニメ的なデフォルメが、私の中で自然と融合したのです。」
彼の作品は、一見立体のように見えるが、近づいてみるとすべてが平面上に描かれている。
まるで錯覚を生み出すトロンプ・ルイユのような技法を用い、マチエールの凹凸を描きながら、絵の中の世界にリアルな質感を持たせる。
これは、西洋の古典技法と日本の漫画的な輪郭線の表現が交差する独自のスタイルを生み出している。
「PLAY GROUND」という名の孤独な遊び場
「PLAY GROUND」という展覧会タイトルには、どこか皮肉な響きがある。本来、遊び場とは賑やかで楽しい場所のはずだ。
しかし、リッチマンの作品の中の「遊び場」は、まるで時間が止まったように静かで、誰もいない。
「作品と鑑賞者が静かに向き合える時間を設けたい。同時に、作品のコンセプトでもある『孤独感』を演出するため、ポツンとした印象にまとめました。」
四肢のない、無力な頭部の像が、広がる空間の中にひっそりと存在している。
表情は静かだが、その目は、何かを訴えかけるようにこちらを見つめている。それは、アイデンティティの迷子になったような、不安定な存在の象徴だ。
観る者は、それを見つめながら、自分の内面とも向き合うことになる。
今回の展示では、彼のペインティングだけでなく、その元となった立体作品も展示される。
普段はキャンバスの中に収められた彼の世界が、現実の空間にまで広がる。作品のプロセスを辿ることで、彼の思考の流れがよりリアルに感じられる仕掛けとなっている。
コレクターにとっての価値
リッチマン・フィニアンの作品は、ただの視覚的な美しさを超えた存在だ。彼の過去、彼の孤独、彼の贖罪の物語が込められている。そして、それは観る者の心にも何かを問いかける。
「私の作品が、誰しもが抱える『内なる子供』との対話のきっかけになれば。」
この言葉の通り、彼の作品は観る者の感情を揺さぶる。
美術作品の価値は、時にその技術や歴史的背景ではなく、観る者の心にどれだけ響くかで決まる。リッチマンの作品は、間違いなくその力を持っている。
今回の「PLAY GROUND」展は、彼の作品の魅力をより深く理解する絶好の機会である。自己と向き合う旅の入り口として、彼の作品を迎え入れてみてはいかがだろうか。
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F