年の瀬ということもあり、先週に引き続き今週も今年のアート界のトレンドを振り返ってみようと思う。
今年の特徴として特にアーティストから見た大きなトレンドとしては、ギャラリーを介さずにアーティスト個人で作品を売れる時代が来たということだ。
おそらくこのトレンドは来年以降、さらに強化されるだろう。
ギャラリーを介さずにアーティストが売れる時代
アーティストとしての活動が必ずしもギャラリー機能を経なくても販売だけであれば十分可能な時代になった。
あくまで「販売」ということにフォーカスした場合であるが、アーティストのセルフプロモーションでいくらでも売れるようになったということである。
もちろんアーティスト活動を支援しながら伴走してくれるギャラリーの立場があってこそ長期的なキャリアアップになるのだが、ほとんどのアーテイストがその恩恵に預かれるわけではない。
プロモーション力に優れているギャラリーと比べると、アーティスト個人が太刀打ちできるわけではないが、ある程度の金額までであればアーティスト個人の力でもメディアを駆使して販売が成り立つようになったということだ。
これはインターネットの発達、特にSNSの普及によってアーティストがセルフプロモーションがしやすくなったことが大きな原因だ。
Instagramで簡単に検索される作品画像は世界中のアートファンに見てもらえる可能性があり、そこからコレクターが直接アーティストに売買の連絡をすることは珍しくなくなった。
もちろん、YouTubeで自身のアート作品を説明するアーティストも増えている。
さらに、アーティストがセルフプロモーションで売れるようになるには、アーティスト側に個人事業主としてのビジネスの才覚があるかどうかも関わってくる。
そうなると、ビジネス経験のあるアーティストがより活躍できる時代が近づいているかもしれない。
このように多くのアーティストがセルフプロデュース術を学び始める一方で、プロモーション力に欠けるギャラリーからは多くのアーティストが去っていくことになる。
アーティストにとってはギャラリーで展示するにしても、すべてのプロモーションをギャラリー任せにすることは減るだろう。
セルフプロデュースをきちんとできるアーテイストとそれをしないアーティストとの差はますます広がっていくことは間違いない。
アーティストは作品を作ってさえいればよいという時代はやがて終焉を迎えることになり、少なくともアーティストとして売れ始める前の段階では、自力で何でもやる経験が必要だろう。
自身のブランディングから何までギャラリーにお任せというのはプロとして十分やれる自信がついてからであり、それまでは何もかも自分で足掻きながらやっていかなければならないし、それができる環境がようやく整ったということだ。
NFTがブームの曲がり角を迎える
2022年の大きなトレンドとして、NFTアートのブームに火が付いた2021年に比べて暗号資産の相場が下落したことの影響を受けてNFT全体のブームが沈静化しつつある。
NFTアートを取引する際にはETHという暗号資産を使うのだが、今年の年初に1ETH=43万円だったものが今では16万円と60%も価格が下がっているのだからしょうがないだろう。
このように、NFTはETHの市場価格に大きく影響を受けるので、昨年の2021年は年初8万円から43万円へと5倍に価格が上がったETHで作品を買った人が多くいたということだ。
このような相場で一攫千金を狙うような買い方ではブームが続くはずもなく、これからのNFTの未来は明るくはないように見えるだろう。
NFTとはデジタルアート作品が唯一無二であることを証明する販売方法であり、NFTという種類の作品があるわけではない。
であれば、NFTの作品そのもののクオリティが低ければそれなりの単価でしか売れないのは当たり前だ。
これからはデジタルアートの販売価格はあるべき姿の価格にまで収れんしていくことになるだろう。
一方でNFTの持つメリットとして、なんでもデジタル作品で売れるという点は大きく、NFTがブロックチェーン技術を応用して様々な用途で使われることは間違いない。
デジタルで作品を作るアーティストが増える中、データ改ざんができない、取引履歴が分かるのでトレーサビリティができる、自立分散型のネットワークで管理されるというブロックチェーン技術の部分を徹底的に活用することがこれからのNFTの未来を作っていくことになるだろう。
NFTの販売価格の上昇には過度に期待せずにアーティストにとっての新しい販売チャネルが出来たというくらいの気持ちで取り組みをするのがよいと今の時点では思われる。