2020年の日本のアート市場は未曽有の危機に見舞われることとなった。
緊急事態宣言によってギャラリーは閉店を余儀なくされることとなり、急遽ネット販売をスタートさせる業者も増えた。
売上が月額で前年比50%割れが当たり前となり持続化給付金を得たことで、固定費が少ないギャラリーは生き延びることが出来ている。
緊急事態宣言後にギャラリー運営は元に戻っても、特に60歳台の高齢者の来客が減った事により売上は戻っていないようだ。
朗報としては、20-30代の層がアートに興味を持ってギャラリーに来るようになっていることだ。
年齢が若いため高額作品の購入には至っていないが、それでもアートを買うということが少しずつではあるが定着しつつある。
とはいいながら、まだ日本のアート市場の状況は依然厳しく、マーケット全体としては二桁減は免れないだろう。
オンライン販売の国内市場は広がってはいるものの、付け焼刃で始めた販売手法の業者は夏以降すでに見向きもされなくなっており、コンテンツの拡充と恒常的な新規顧客の開拓が求められている。
世界最大のアートフェアを運営するART BASELのレポートでは、欧米の巨大ギャラリーは平均で36%の収入減により従業員のリストラが進んだようだ。
オンラインによる販売はギャラリー売上の26-35%まで上がっており、今後も欧米ではオンラインと並走したギャラリー運営がマストとなっていくだろう。
このように、欧米は日本と比べるとコロナ感染者・死亡者数が20-60倍も多い中で、かなり厳しい戦いとなったようだ。
一方、日本国内ではセカンダリー市場(主にオークション)は好調へと転じた。
コロナ禍で行き場を失ったマネーは「資産分散」によるリスク分散の考え方が広がることとなった。
特に商業不動産やスタートアップへの投資が避けられ、上場株式、仮想通貨への投資が増えるとともにマネーはアートにも向かうこととなった。
とはいいながら、どんなアートを買えばよいのかが分からないため、投資家仲間からの口コミ情報からセカンダリー市場でのアート購入が増えている。
元ZOZOの前澤氏がオークションでバスキアを購入したということから、オークションで買えば大丈夫だろうという法則がいまだに根強いのかもしれない。
活況のオークション市場ではあるが、アートを買う年齢層が下がっていることも影響して、典型的な日本のガラパゴス市場でしか通用しないようなイラストっぽい作品も評価が上がっているのが特徴だ。
80年代の漫画やイラストを模倣した作品が30歳台の投資家からは全く新鮮なものに映るのか、人気に拍車がかかっているようだ。
いずれにしても、現在の日本のアート市場は30-40歳代の若年層が中心となってセカンダリー市場で新しい盛り上げを見せているのは事実だ。
これは、ここ数年の中国、台湾、香港といったアジアのアート市場の後追いのような形で展開しているようにも思われる。
購入者が育ち始め、情報が少ない中で一部のオークション銘柄に人気が集中している図式はそっくりだ。
近年のアジアはオークション市場が全体を牽引してプライマリー市場に少しずつ浸透する形をとりながらギャラリーで購入するコレクターが増えていった。
つまり、オークションに出品されるよく知られるアーティストの作品をいざ売買をしようとすれば、思ったより手数料がかさむので利益を得るまでに時間がかかることを知ることになる。
実はギャラリーのようなプライマリー市場で買うほうが、競争が少ない作家はオークションより割安で買えるという情報がまだ浸透していないのであろう。
また、どのギャラリーで買えばよいのか、どのようなアーティストが将来有望かといった情報が少ない状況ではプライマリー市場は盛り上がらない。
コロナ禍でも着実な経済成長を達成した中国は、米国を追ってさらにアート市場が広がっていくことは間違いないだろう。
日本のアート市場が中国を中心としたアジア市場に大きく後れをとっている現状から少しでもキャッチアップするためには情報の開示と共有がかかせないこととなる。
2020年のアート市場は危機だったかもしれないが、これをチャンスに売上を増やしたギャラリーもある。
コロナ禍になる前から世の中の流れを見ていて柔軟に対応できる体制をとっていたからだ。
アーティストも同じで、ギャラリーに頼り切りで対応が遅くなった作家を何人も見てきたし、自ら機会を作りだした作家も少なくない。
タグボートは来年を大きなチャンスだと考えており、何とかコロナ禍を切り抜けたからこそ見えてくる未来がある。
コロナ禍で行き場を失ったマネー、アートに興味を持ち始めた若年層、コンテンツ拡充による情報の共有という3つがキーポイントとなると考えている。
来年3月に開催される一つのギャラリーだけによる大規模なアートフェア「TAGBOAT ART FAIR」は、世の情勢を捉えた珠玉の作品で展開していくのでぜひ期待をして頂きたい。
http://www.tagboat.com/artevent/tagboat-art-fair2021/