リアルとネットの違い
リアルのギャラリースペースにはメリットとデメリットの両面がある。
最も大きなメリットは作品を直に見ることができるので、作品そのもののクオリティ、迫力といったものを体感できることにある。
作品に関して言えば、リアルに勝るものはない。
スマホの狭小画面から感じることには限界があり、リアルの作品を代替することは不可能だ。
一方、ネットの持つメリットは世界中どこでも24時間いつでも作品を購入できるという利便性と掲載・閲覧できる作品数が無限であることだ。
アート作品を購入する際に、リアルのギャラリーで様々な作品を見比べようとすれば何十軒もののギャラリーを巡ることとなり、時間がかかることがリアルの最大のデメリットであろう。
それでも最近ではアートフェアを中心に回ることで、効率よくアート作品の購入をすることが当たり前になってきている。
しかし、アートフェアはブースがギャラリー単位で設営されているので、一つのギャラリーが展示できる作品数には限界がある。
またアーティストの持つ世界観を紹介しようとすれば、1ブースには1人のアーティストにする必要があり、そうするとギャラリーが全部の所属アーティストをアートフェアで紹介することは事実上不可能だ。
つまり見せる「箱」の大きさに限界があるのがリアルギャラリーの問題点であり、様々な選択肢からアートを買いたいと考えている人にとっては効率が悪いこととなる。
結局の話、アートを買う場合にはリアルとネットのそれぞれのいいとこ取りをして、購入者にとっての都合のよいほうで買えばよいのだ。
しかしながら、実際にはネットとリアルの両面でアート作品を提供している日本の業者はまだまだ少ない。
どちらかしか買えないというシングル・チャネルは不便極まりないし、顧客側がそれを選べないのは令和の時代においてはナンセンスとなるだろう。
これからは、ネットとリアルの融合が当たり前となってくるだろうし、そのサービスを提供できない業者は自然に淘汰されていくだろう。
米国では、ガゴシアンやデビッド・ツィルナーのようなメガギャラリーでも一部作品を除いて普通にネットで買えるし、顧客にとってよりよい利便性を追求することが当たり前になってきているのだ。
接客とマーケティングの違い
ギャラリーにおける接客とは何かというと、来場された顧客に対し作品の情報をその場で見ながら教えてくれることだ。
国内の一般的なギャラリーは来場者の数が少ないので、購入意思の強い顧客が来れば買ってもらうように接客することが当たり前のように思えるが、実際にそれが役立っているかどうかは疑問だ。
最近の顧客はすでに作家、作品について多くの情報を持っており、SNSでアーティストとすでに繋がっていることもある。
ギャラリー側もアーティストと同レベルまで作品情報を伝える必要があるし、もし伝えられたとしてもその作品を購入してくれる可能性は低いものだ。
実際には顧客が買いたいと思う作品はギャラリー訪問以前にあらかじめ決まっていて、それを目で確かめた上で購入したいという方には接客自体はさほど重要でないかもしれない。
つまり、接客されたから買うというより、マーケティング施策に応じて買っているのだ。
特にネット販売では接遇そのものができないので、質量ともに充実した情報が提供されたマーケティング施策によって買ってもらうしかないのである。
ここまでをまとめると、すでにアートは接遇によって相手を上機嫌にして購入してもらうという手法が難しくなっている。
接遇によってアート販売に成功した例として、クリスチャン・ラッセンというイルカ等の海洋生物を描く画家の作品を売るときに細かくマニュアル化された接客方式がうまくいった時代があったのだがこれも長続きはしなかった。
アートの価格は決して安いものではないため、来場者が欲しいと感じた作品が割賦販売で安く買えることをマニュアルで説明することで成約につなげられたのだが、今ではその手法は通用しなくなってきている。
さて、一方でアートにはマーケティングが通用しにくいという人もいるのだが、そんなことはありえない。
アートの業界にもマーケティングは十分通じるし、ネットの時代になって逆に接遇よりもマーケティング重視に変わってきているといってよいだろう。
アートはふらっと入ったギャラリーで偶然売れるものでもなく、作品選び、販路、販促活動、価格というマーケティング施策を統合した戦略によって売れるのだ。
もちろん、顧客のターゲティング、作品のセグメンテーション、市場におけるギャラリーのポジショニングを意識することは当然だろう。
アートはリアルとネットの両方のチャネルをそろえ、且つ、統合されたマーケティング施策をやっていかないと今後は戦っていけない時代が来たということなのだ。
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら