アート作品を流通形態で区分けした場合、一次販売、つまりギャラリーなどで最初に販売される作品をプライマリーといい、二次販売、つまり購入者の手元に一度渡った後に再度販売される作品をセカンダリーという。
車に置き換えてみると、メーカーのディーラーから購入する新車がプライマリーで、その後に中古車市場で売買されているものがセカンダリーということだ。
アートの場合、車とは違ってセカンダリーには若干の経年劣化はあるものの、年数によって作品の価値が下がるどころか、人気作家の場合は上がることが多いのが特徴である。
それぞれの価格の付け方の違いについて見てみよう。
プライマリーの価格
一般的にプライマリーの価格はギャラリーによって値付けされるのであるが、この価格は世の中の需要によって決定される価格とは少し違うことをまず理解して頂きたい。
つまり、ギャラリーの価格というものは人気の度合もあるのだが、どちらかというと、作家年数、賞歴、制作時間、制作技術、さらには原材料費といった項目を加味して総合的に決定されることが多い。
作品は上記の項目を基礎としてサイズ毎に価格が違うのだが、サイズあたりの基礎単価(号あたり価格)は、現代アートではサイズが大きくなるとその基礎単価(号あたり価格)が低減する方式をとっている場合が多い。
例えば、キャンバス10号あたりの単価が10,000円のものが、30号では8,000円、100号では6,000円といったように号数が上がる(作品サイズが大きくなる)と、基礎単価が逓減するといった具合だ。
これらのプライマリーの価格はセカンダリー市場に出るまでの価格であり、展覧会が開催されるごとに価格を少しずつ上げていくことが多い。
セカンダリーの単価
セカンダリー作品を買う理由というのは、有名なアーティストはすぐに作品が完売するのでギャラリーで買えないといった場合や、現在は制作してない以前の作品が欲しいとき、ということが多い。
ギャラリーの展覧会初日に人気作家の作品を買いに行く時間がなくて機会を逸することはよくあるが、セカンダリーはオークションでお金さえ出せば確実に買うことができるのがメリットだ。
セカンダリーで作品を買う場合に、オークション会社がカタログに載せる見積り(エスティメート)価格が購入の目安になるだろう。
通常はエスティメートの下限から10%ほど下がったところから会場でオークション価格を上げていくのだが、下限近くで買えれば安く買えたことになる一方で、高い作品は競争が激しく高すぎて買えないということがよくある。
オークションは「競り」なので、その作品をどうしても欲しい顧客がお金に糸目をつけずに買おうとすると、とんでもない価格にまで上がってしまうのが特徴だ。
しかもその価格は自由競争で正式に値付けされたものとして、オークションの記録(レコード)として残されていくのだ。
一方、ギャラリーが提示するプライマリー価格は一般には公表されないため、我々がネットなどの情報で知ることができるのは、このセカンダリー価格だけとなる。
このように、プライマリーが基礎単価を基に値付けする定価に対し、セカンダリーは変動価格といってよいだろう。
ギャラリーの定価であるプライマリー価格は、セカンダリーで落札された価格に応じて、展覧会毎に徐々に価格を上げていくのが通常だ。
というのはギャラリーにとっては1万円の作品を売るのも100万円の作品を売るのもかかる業務は変わらないで、少しでも高く売るためにギャラリーはセカンダリーで測られる人気度に応じて価格を変えているからだ。
コミッションワークという購入方法
プライマリー、セカンダリーという流通形態での分け方のほか、プライマリーには展示作品の販売以外に、コミッションワーク(受注制作)という購入方法がある。
つまり、人気の作品が売り切れた時に、取り扱いギャラリーが顧客に応じて作家に制作を依頼するということだ。
ただし、コミッションワークはオーダーを受けたらその顧客は必ず買うことが条件なので、出来上がった作品のキャンセルは出来ない。
さらには、依頼できるサイズには下限があったり、制作途中での確認作業などが必要となるほか、通常のプライマリーより少し割高に価格が設定されていることが多い。
また人気作家の場合は、彼らが自由に作品を作りたい希望を優先し,コミッションワークの数を制限していることがほとんどだ。
コミッションワークは一見の顧客の場合は受け付けていないギャラリーも多く、常連顧客が有利となるため、通常よりも購入のハードルが高いことから、安易かつ着実に買えるオークションでのセカンダリー購入が人気なのだ。
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