フリーズ・ロンドンというアートフェアとしてはヨーロッパではアートバーゼルに次規模ののフェアに行ってきた。
200軒以上のギャラリーが出展するアートフェアであり、世界中から一流のギャラリーのみが参加できる格式の高いフェアの一つである。
ロンドンのリージェントパークの中にある巨大な仮設テントで開催されており、フリーズロンドンのすぐ近くにはフリーズマスターズというピカソやルノアールなどの美術館所蔵級のオールドマスターズの作品が数多く展示販売されている。
今年はコロナ禍が明けてから最初のフリーズだということもあり、多くの来場者でごった返していた。
もちろん、会場にはマスクなどしているのは誰一人いない。
フリーズロンドンに出展しているギャラリーでは日本から唯一タカイシイギャラリーが出展しており、それ以外の出展はなかった。
韓国からはGallery Hyundai、Tina Kim Gallery、Kukjeなど数軒が出展していたが、中国や台湾から主要なギャラリーの出展はあまりみられなかった。
会場全体を見ると東アジアの勢力の低下が感じられたのが今年のフリーズの特徴だ。
展示している作品に写実や具象絵画は少なく水墨画的なアジア要素が強い作品はほぼなかった。
フリーズロンドンで展示されている日本人アーティストは、パリのギャラリーPerrotinで村上隆のオリジナルの小作品が1点あるのみであり、草間彌生や奈良美智、杉本博司の作品は見当たらなかった。(タカイシイギャラリーで奈良美智が撮った写真作品はあったが)
その他の日本人アーティストとして、松山智一やサイモンフジワラが欧米のギャラリーから出品されていたくらいで、日本人アーティストの存在感は非常に薄い印象だ。
名和晃平、加藤泉、ロッカクアヤコといった日本のオークションでお馴染みの作家の作品は見ることはなかった。
もちろん、日本のイラストアートや、アニメ系の作品というのは一切展示されておらず、アジア的なキャラクター作品は全くと言ってよいくらい展示されていない。
これはコロナ禍の後に急激に拡大するグローバルなアート市場の中で、東アジア市場が取り残されているということだ。
特に日本のアート市場は一部のイラストアートのセカンダリーが活況となっているように思われるが、グローバルから実態を見ればその動きは存在に気づかない程度でしかない。
ロンドンに行った後に、イタリアのベネチアビエンナーレにも行ってみたが、ここもすでにコロナ禍は終了していた。
ビエンナーレの会場スタッフの一部でマスクをしている人もいたが、それも個人の自由なので全体として来場者はほぼ誰もマスクをしていない。
これを見ると、コロナ禍を終わらせた欧州と、いまだにコロナ禍を終わらせたくない東アジアで明暗がはっきり分かれたという印象だ。
各国の経済の景気動向は直接アートマーケットに関与するのだが、重要なのはマインドである。
中国はコロナ禍の最初の1年だけは感染者を抑えることに成功して、低迷する欧米に比べて中国だけが一人勝ちする状況があった。が、それは束の間であった。
今だに感染者が増えるとロックダウンをする中国の経済は現在は冷え切っており景気が好況な欧米と比べて真反対の状況となっている。
コロナ対策をいまだにしている中国、日本といった東アジアの人々のマインドが上がっていないので経済に結びついていないということだ。
世界に対して鎖国政策をして閉じられたガラパゴス状態になってしまうことは、江戸時代の経験で分かっているはずであるが、残念ながら東アジアのアート市場はこのままでは欧米とは差がつくばかりだ。
さて、今週はパリでアートバーゼル・パリが初めて開催される。
パリはこれまで、グラン・パレ国立ギャラリー(Grand Palais)で開催されてきたアートフェア「FIAC」があったのだが、コロナ禍で開催されない時期にアートバーゼルによって買収された。
グローバルなアート市場はコロナ禍が終わる中で大きく動いており、アジアで今年はフリーズソウルが初めて開催されるなど変化が途切れることはない。
来週はこの1年で先行する欧米で特にヨーロッパがどのような動きを見せているかをさらに深堀りしたレポートをしたい。
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