最近タグボートにアートビジネスについての問い合わせが増えてきています。
問い合わせの主な内容は「アート市場への新規参入」です。
欧米ではアートマーケットが大きく、まだ脆弱な日本のアートマーケットが欧米なみに成長することを期待したビジネス展開と思われます。
また、アート業界は個人事業主ばかりであり、大手企業が参画していないことからチャンスがあると感じるのでしょう。
アートと企業ニーズを結び付けることでアート市場全体の規模を膨らませようということが狙いのようですが、話をしてみると新規参入業者が理解されてないことが散見されましたので、この業界でビジネスを成り立たせるための特徴的なことを書いておこうと思います。
アートビジネスをする場合に勘違いされやすいことは大きく言うと二つです。
勘違いの一つは日本の現在のアートの市場規模で、二つめは作品を商品としてとらえてしまっていることです。
日本のアート市場規模
Googleで検索すると日本のアート市場規模は2460億円と出てきますが、それは古い洋画、日本画、古美術、工芸を含めた市場であり、海外ではアンティークという位置づけとなるため世間一般のアートとは別市場となります。
2460億円の内訳をみると、洋画 548億円、日本画 436億円、陶芸 402億円、版画 294億円に対し、現代アート(平面)の市場は222億円で、立体・インスタレーションまで含めると現代アートの市場は391億円ということらしいです。
つまりざっくり400億円が正しい意味での日本のアート市場であり、海外のアート市場の7兆6000億円から見ると0.5%程度しかないというのが現実です。
ここを間違えて、日本のアート市場が2460億円だと信じてしまえば、ビジネスの戦略も変な方向に行ってしまうのです。
400億円を2460億円と見てしまうというのは市場規模を6倍も間違えてますので、例えていうと日本の人口を7億人と勘違いしてビジネスをしているのと同じです。
特に最近のアート系のスタートアップ企業が「日本のアート市場は2460億円であり、世界から見ると少ない」と言っているのを聞くと、本当に市場のことが分かっていないのか、株主を誤魔化そうとしているのかどちらかでしょう。
もし、日本のアート市場が2460億円もあるとすれば、マーケットを包括するようなプラットフォーム事業が可能となってきます。
例えば、Amazonのマーケットプレイスのように、参加業者がプラットフォームを利用して自ら作品をアップロードして販売するモデルは2460億円の市場があれば成り立っても、逆に市場規模が400億円しかなければ小さすぎて事業として成り立たないということです。
これまでも幾多のアートのプラットフォーム型ビジネスは、損益分岐点まで売り上げが到達せずに途中でやめてしまっているのが現状です。
作品を商品として捉えるのでなく人として捉える
作品を商品として捉えるのはセカンダリー市場では問題ありませんが、プライマリー市場では商品としてビジネスをするとうまくいきません。
商品を売るというよりも個別のアーティストをプロデュースするというやり方でないとリピートで買う人もなく販売が上向くことはありません。
ウェブに作品を掲載するだけで自動的に売れていくことは、著名な作家でない限りまずないと思った方がよいでしょう。
そもそもアート作品とは生活で必要な有用性があるわけではないですし、価格的にも気軽に買えるものではない売ることが難しい商品なのです。
アート作品を売るためには作家個人のファンになってもらうことが最も重要であり、ファンの獲得のプロモーションに力を入れる必要があるのです。
アーティストを応援するパトロンとしての気持ちを顧客に持ってもらうことが大事であり、作家の成長と共に作品の価値をいっしょに上げていくものなのです。
従いウェブサイトで作品を見せるだけではまったく不十分であり、作家と二人三脚でプロモーション活動を行う芸能プロダクション型でなければ、アートビジネスはうまくいきません。
まとめると、現在の日本のアート市場規模ではプラットフォーム型のビジネスは成り立たないので、マーケットプレイスのサービスは厳しいということ、また個別のアーティストの販促まで関わる芸能プロダクション型でなければ販売が上向かないという現実を知ってもらえれば、国内でアートビジネスを始めるときの方針に役立つかと思われます。
もちろん、セカンダリー市場を狙うビジネスや、国内のアート市場が大きくなった後では状況が変わってくることは言うまでもありません。
アートビジネスを始めるときの参考にしてもらえればと思います。