Drag Queen(ドラァグクイーン)という言葉は、マツコ・デラックスやその周辺の新宿2丁目軍団が世の中に出てくるまでは日本ではあまり知られていない存在だった。
派手な女装パフォーマーで、海外ではパーティーなどでは引っ張りだこのDrag Queenだが、国内での認知はこれからといったところだ。
Drag Queenとは、男性が派手な衣装やメイクで女性のように装うエンターテイメントの一形態である。
Dragはアート、表現、文化、そして社会的メッセージを伝える手段として多くの意味を持っているのだ。
ところで、Drag Queenの活動が持つ意味や価値とは何だろうか。
その理解が深まらない限りは、単なる趣味としての女装といった認識にすぎないことになってしまう。
Drag Queenの意味と価値
まず一つ目は、「自己表現」という考え方だ。
個人主義の考え方が非常に薄い日本ではまだまだなじみにくいかもしれない。
高校球児が一律坊主頭にしたり、企業の入社式で全員がダークスーツを着用している様を見るにつけ、個人の表現は制限される、または統一されるであるべきという幼少からの教育が影響されるのかもしれない。
その一方で、Dragは自分自身を表現する方法として使用される。
自分のアイデンティティや内面を派手な外見を示すことで、自己確立や自己認識を高めようとするものだ。
それだけではない。Dragは社会的なメッセージをも発信する。
ジェンダーの固定的な役割や性のステレオタイプな考えに疑問を投げかける手段として機能するということだ。
Drag Queenは、ジェンダーの流動性や多様性を称賛し、それを広める役割を果たしていくのだ。
またDragはショーとしての側面も強く、多くの人々に楽しみを提供するエンターテインメントとしての価値もある。
テレビやパーティーで見かけるDrag Queenはほぼこの側面だけで世の中に認知されており、個人の内的な表現や社会的なメッセージはまだ大衆には届いていない状況だ。
だからこそ、DragはLGBTQとそのコミュニティ内で結束を深める手段として働く必要があると言えよう。
Dragショーはコミュニティの集まりや祝賀の場として分かりやすく人目に披露することで機能するので、コミュニティが結束する象徴でもあるからだ。
しかし、残念ながらDrag QueensやDrag文化に対しては偏見や誤解はまだまだ多く存在する。
これらの偏見を払拭するためにはアートを通した取り組みが効果を生むのでは、と考えたのが大山貴弘であり彼は作品を通してそれを主張しようとしている。
大山貴弘は作品を鑑賞した人々がDrag文化やジェンダーの多様性についての知識を得ることで、誤解や恐れがなくなることを望んでいる。
テレビや映画、ソーシャルメディアなどでのDrag Queenの表現は、一般の人々にDragを正確に理解するには行き届かず、まだまだ偏見が多いのは事実である。
自由な表現を是とするアートにこそ、打開するチャンスがあるかもしれない。そう大山貴弘は思ったのだ。
日本は表現の自由においては欧米先進国に比べて確立しておらず、性や宗教、政治など、表現をすることで反感を買いやすいアート作品は敬遠される。
これがまさに争いを避ける典型的な集団文化であるが、あえてアートだけはそういった文化からは遠ざけることができるサンクチュアリ(聖域)であるべきなのだ。
セクシュアルマイノリティに対する偏見や誤解は時に根深いものがある。
だからこそ、教育、露出、対話を通じて少しずつ変わっていくことが期待されるし、そのときのために大山貴弘はこの作品を作り続けているのだ。
大山貴弘は岩手県の山々に囲まれた場所にアトリエを構え、楠(くすのき)を彫刻の素材として用いてる。
平安時代の仏像制作のように、いくつかの木のパーツを継ぎ合わせた「寄木造」と呼ばれる技法で制作しているのだ。
彼が古い様式の制法を使う理由は、岩手から東京までの展示の輸送コストを減らすためである。大きな作品を分解して、中をくり抜くことで軽量化できるようにするからだと言う。
世間の偏見を変えるためにアートを作る
さて、アートは目的用途がある工業用品とは違い、歴史に残すことを目的としている。
彼は、今が世間の偏見を変化させるべき時だからこそ、作品を作り続けることに意味を見出しているのだ。
LGBTQが正当化される時代があったことを後世に伝えるため、悲しみや苦しみを笑いへと昇華する象徴としてのDrag Queenが制作されるのだ。
まだまだ日本における多様性への許容は、世間体を気にしたお仕着せのものでしかない。
浸透するには時間がかかるし、そのためにはより深い理解が必要である。
我々は実はどこかの面ではマイノリティの部分があるはずなのに、それを意識せずに生活している。
それに対しアーティストとしてどこまで切り込んでいけるのか、これからが大山貴弘の正念場だ。
大山貴弘 Takahiro Oyama |
銀座三越で開催される「ART FAIR GINZA」が9月2日から開催される。
ART FAIR GINZAではタグボートの50名の取り扱いアーティストによる作品が銀座三越の催事場全てを使って展示され、すべてオンラインでも販売される。
大山貴弘の作品も展示されるので、是非こちらも期待して頂きたい。
公式サイト「ART FAIR GINZA」
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