このコラムには現代アートのマーケットの潮流について俯瞰的に考えたことを6年以上も書かせてもらった。
最近では2回にわたってタグボートの取り扱いアーティストを代表の徳光が独自の視点で語っている。
作家や作品の説明だけではなく、なぜそのアーティストをタグボートで取り扱うに至ったか、その考え方を読者に理解してもらうことを主眼においているのだ。
さて、今回ご紹介する小野海はタグボートの大型新人アーティストである。
今年2月に人形町にギャラリーを新設するにあたって、その杮落としに彼の作品を展示したことには大きな意味があった。
その意味合いを以下のとおり説明していこう。
小野海の作品の魅力
小野海の作品に初めて出会ったのは、2022年の東京藝大の卒業制作展であった。
今から1年3か月ほど前だ。
藝大大学院の彫刻科に展示されていたその作品のスケールの大きさもあるが、見た瞬間に作品の持つ雰囲気に一気に飲み込まれた感じがした。
アートバーゼルなどの海外の一流のアートフェアなどでは、エントランスに入ったすぐのところに大型インスタレーションが展示されることがあるが、そのような雰囲気を纏った作品だったのだ。
つまり、世界の一流にも負けないくらい小野海の作品には「華」があり、その圧倒的な存在感に一撃をくらわされた気持ちになったのだ。
以下がその小野海の卒業制作の作品である「Prism-Aureola」であり、高さが4mもあり絶大なインパクトを持っている。
小野海の作品から発せられるものは圧倒的な「違和感」である。
どこに置いても落ち着かないし、他の作品と一緒に展示しても小野海の作品だけが異常に目立ってしまう。
一般的なインテリアは馴染みにくい作品であるし、しかしそれをモノともしない潔さがあると言ってよい。
また、造形についてはどこから見ても違う形をしているので色んな角度からも楽しめる面白さがある。
これこそが彼の作品の特徴ともいえる「歪み」であり、シンメトリー(左右の釣り合いがとれている)や、規則性のある美しさとは対極にあるものである。
歪みがないと小野海らしくないと言ってよいだろう。
しかも、使われている色が7色のレインボーカラーだ。絶対に目立つ色調だ。
最初はLGBTのパレードで見かけるレインボーフラッグに関するコンセプトが含まれているかと思ったら、まったく関係ないそうだ。
小野海のレインボーの色彩に力強さがあるのはそれがアクリル毛糸という発色性の高い素材を使っていることも関係しているだろう。
そのトロピカルさは南米っぽい暖かい地域を感じさせる色彩なのだ。
こういった諸々の見た目のインパクトに圧倒されて小野海の作品を気に入ったので、タグボートはスカウトすることを決めたのだ。
ところで、小野海は東京藝大に入ったばかりは動物の彫刻ばかり作っていたそうである。
しかもかなり緻密に本物の動物と見間違えるくらいの作品だ。
当時はテラコッタという焼き物の手法で作っていたというから、今のアクリル毛糸の作風と比べると大きく様変わりをしたといえよう。
ピカソもそうなのだが、緻密で写実的な作風から一転してこれまでにない新たな作風を作り上げるには、段階があると思っている。
ピカソは幼少時代は写実的な絵画で天才と呼ばれていたのだが、そこからキュビズムへと発展したのは熟練した技術の裏付けがあったからこそ新しい発明ができたのだと言えよう。
天才は一夜にして成し遂げられるものではない。
努力の蓄積がどこかで開花するものなのだ。
タグボートは小野海をピカソになぞらせてイメージしており、彼の持つ将来性に大きな期待を寄せている。
作品はどのように作られるのか
次に作品の作り方を見てみよう。
最初は木と針金で全体の型どりをしている。作家が納得するまでフォルムを形成していく作業だ。
最初に紙にイメージするドローイングを描いてから作るのだが、おそらく途中で何回も針金の形を変形させていくのだろう。
この創造性こそが小野海の世界の真骨頂だ。
つぎに粘土と糊が付いた紙を貼り付けて全体を覆っていく。
最後にアクリル毛糸を一本ずつ巻き付けるように貼っていくのだが、フォルムを作ってから以後はどちらかというと職人仕事となっていくようだ。
そして全体が構成されていく作品の過程を見ると、この彫刻作品が生き物のように感じてくるから不思議だ。
小野海自身が作品に生気を吹き込んでいるかのように思えてくるのだ。
ここまで読んで頂き、なぜタグボートが彼を新ギャラリーの杮落としに展示したかをお分かりいただけただろうか。
急成長するアーティストの今をぜひ作品で感じてほしいと思う。
さて、小野海はメディアでも紹介されており、最近ではフジテレビの深夜に放送されていた番組「CoA」で小野海が3回に分かれて放送されている。
深夜なのでなかなか見る機会はないだろうが、Tverにはアーカイブが残されているので是非とも以下をクリックして見て頂きたい。
0:20 – 3:55の間
5:02 – 10:22の間
3:15 – 10:23の間
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