アーティストが売れ始める瞬間というのは、まるで金鉱を掘り当てるようなものだ。
まず、ある展示で作品が売れる。その瞬間は偶然にも思えるが、実はそこには一定の法則がある。
なぜその作品が売れたのかを分析することが、次の成功へとつながるからだ。
売れた理由を考えずに、たまたま売れたことに満足してしまうと、その後の売上が伸び悩むことになる。
逆に、まだ売れていないアーティストは、ひたすら自分の鉱脈を探し続けなければならない。
鉱脈とは、自分の作品が特定の層に受け入れられるスタイルやテーマのことだ。作品を掘り進め、どこかで市場とつながる地点を見つける。そこを見つけることができた者だけが、「売れるアーティスト」になれる。
しかし、売れること自体にはある種の偶然もある。
SNSや口コミによって、ある作品が突如として注目され、短期間で人気が出ることもある。ただし、こうしたブームは一過性で終わることが多い。
本当に長く売れ続けるアーティストは、単なる流行ではなく、作品が持つ意味や背景をしっかりと伝える努力をしている。
作品を作ったら、たまたま売れるということはありえる。
しかし、それは長続きしない。売れ続けるためには法則があり、それは作品の持つ意味を伝えることにある。
その部分の手を抜くと、あっという間に売れなくなる。作品のパッと見た目で勝負するのではなく、その背景にある意味をどれだけきちんと説明できるかが重要なのだ。
そのためには、難しい言葉を並べることを回避し、人々の心の琴線に触れるためにはどのような言葉選びをするか、までアーティストはこだわるべきなのだ。
たとえば、人は何となく好きなアート作品を見たとき、その魅力に対する「説明」があると安心する。
作品がなぜ魅力的なのかを言葉で理解できると、それを所有することに対する納得感が生まれる。
作品単体の力も大切だが、それを支える「物語」や「コンセプト」があることで、価値がより明確になるのだ。
このことを証明したのが、村上隆である。
村上隆の初個展がアメリカで開催されたのは、2001年にロサンゼルスで開かれた「SUPER FLAT」展だ。この展覧会は、彼の名を世界に広める大きなきっかけとなった。
単に作品が気に入られて売れたわけではない。彼は「スーパーフラット」という新しいコンセプトを打ち出し、その理論を英語のコンセプトブックとして発表した。
スーパーフラットとは、日本の浮世絵、漫画、アニメに共通する「平面性」に着目した概念である。
日本の美術史を遡り、若冲や北斎の時代から続く視覚表現を説明し、それを現代アートとして再解釈した。
そして、この平面性は単なる画風ではなく、日本の社会構造にも結びついていると主張した。
つまり、日本には伝統的にファインアートとサブカルチャーの境界が曖昧であり、それが独特のアート文化を生んでいると説明したのだ。
このコンセプトを通じて、欧米のコレクターは初めて日本の現代アートに対して興味を持った。
彼らにとって、単に「カラフルでポップな作品」ではなく、「歴史と社会の背景を持った芸術」として価値を認識できるものになったのである。
当時の日本は、経済的にも勢いがあった。GDPは世界2位で、世界に誇れる産業が次々と生まれていた。
そんな中で、「なぜ日本の現代アートが発展するのか」という問いに対して、スーパーフラットは明確な答えを提示したのだ。
敗戦後の日本、オタク文化の発展、社会の平坦化――こうした要素を組み合わせて、アートの必然性を説明したことで、多くの人が彼の作品に納得した。
この事例から学ぶべきことは明確だ。
アートは「作品だけを見せれば売れる」と考えてはいけない。作品の魅力を伝える言葉、背景、コンセプトをしっかりと作り上げ、それを適切に伝える努力をしなければならない。
売れるアーティストとは、偶然の成功を運に任せるのではなく、売れる理由を作り出せる人である。
村上隆のように、自らの作品を市場に適応させ、言葉とともに価値を伝えていくことが、長期的な成功につながるのだ。
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F