中風森滋は、東京藝術大学の大学院油画科を卒業したばかりの若手アーティストである。
アニメのようなキャラクターをモチーフとして作品を作っているのだが、タグボートが独自にセレクトしている作家なので当然であるがひと癖あるアーティストだ。
そこら辺に山ほどいるイラストレーターとは違う作風を持っている。
中風が描くのはアニメのキャラクターとは言っても、個別のキャラに強い意味合いを持たせているわけではないし、特定の人物をモチーフにしたものではない。
よく漫画に出てきそうなタイプのイメージを簡略化してサラサラと軽いタッチで描いたものだ。
中風はキャラクターをラフに描く技術が異常とも言えるほどにうまく、しかも一発で描き上げる線にこだわっている。
しかも、キャラクターの周りにも何重にも線を這わせることで、一旦描いた線を後でときほぐしているように見せているのだ。
線描というものは、本来なら重ねて束ねることでリアリティが増すものであるが、彼の場合は逆にそれをキャンバス上に解きほぐしているように見える。
そうすると、元の絵が何だったか分かりにくくなるわけだ。
一方、最近のイラスト系のアートの特徴は彼の描き方とは逆である。
見てすぐに分かるように強いイメージをキャラクターに込めているし、キャラに個別の意味を持たせようとしている。
つまり、イラストアートは全体の線を太くして、タッチで「分かりやすさ」を伝える必要があるものだ。
原宿あたりに点在するイラストアートのギャラリーで展示されている作品を見ると分かるのだが、同一キャラを様々な作品に登場させており、そのキャラの意味合いを強く印象付けさせるものが多いのだ。
それに比べて、中風の作品はイラストっぽいモチーフを使ってはいるものの、作品のもつ特徴はイラストアートとは真逆である。
それは彼が東京藝術大学の油画の大学院にて学ぶ中で、漫画やアニメに描かれたキャラクターというものの本質を探ったかのように思えてくる。
一般的には、ファインアートでのうまさというのはホンモノに近いものを描く写実の技術にある。
ご存知の通り、写真とコンセプチュアルアートの出現により、写実の技術というものは古いものとされ、現代アートの文脈ではあまり相手にされなくなってきている。
一方で、二次元を中心としたイラストの世界では、「絵師」と呼ばれる人たちがいて、彼らの高い技術はより詳細かつ緻密に描いているのだが、顔だけはなぜか漫画のままなのだ。
それはPIXERなどの海外のアニメーションなどでも同じで、二次元の世界の中でのリアリティを求めている。
当たり前のように眼は通常の人間より大きく描かれ、理想の体形で描かれている。
そういった二次元のリアリティというものは、アニメで幼少から育ってきた20代の中では当たり前であり、切っても切り離せないものである。
だからこそ、アートで勝負する場合も、敢えてアニメっぽい絵から出発するがことが多いし、それは日本の文化的な背景からは必然なのだ。
つまり、若い世代にとってのリアリティは、二次元と三次元での差をはっきりさせることではなく、曖昧なままにすることがノーマルであると言ってよいだろう。
さて、中風はイラストのようにキャラクターを高い技術力で描くことには興味がない。
アニメを描くことが普通の世代で育ったからそのままアニメキャラをモチーフにしているだけである。
ただし、彼の場合は、そのキャラクターの中に自らのもつ弱さを表現している。
つまり作品のモチーフは自分の内面を表現するための手段として使っているのだ。
それが彼の持つ独特のリアリティであることを作品を通して感じてほしいと思う。
中風森滋 Shinji Nakakaze |
tagboatで開催するグループ展「NEW WAVE」のご紹介
2023年8月24日(木)~9月16日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊日:日月祝
*オープニングレセプション 8月24日(木)18:00-19:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
自身で創作した架空の国家の歴史をモチーフに制作する太田剛気。「絵画」の構造や、その制作に対する自身の視点を基にした発想を作品にするオクヤマ コタロウ。実体験に基づく平成女子の世界観を表現する佐藤しな。デフォルメされた二次元の中にリアルを感じ、様々な要素をほぐしながら真に本質的なものを探る中風森滋。
好奇心に溢れた4名の作家による渾身の新作を是非ご覧くださいませ。
ARTIST
太田剛気、オクヤマ コタロウ、佐藤しな、中風森滋
タグボート代表の徳光健治による二冊目の著書「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら