「アートが売れる法則というものがあるのか」とよく聞かれることがある。
こうすれば絶対に売れるといった法則はないのだが、売るために必要な方法論がいくつかあることは間違いない。
その方法論をテクニックとして分解して考えてみようというのが今回の主旨である。
売るための絶対的な法則はないが、様々な方法論の組み合わせによって売れる可能性を飛躍的に高めることはできるはずだ。
過去のデータや経験をもとに、考えられる方法論をテクニックとしてまとめて皆様に共有したいと思う。
露出の絶対量
「アートは本当に買いたいと思う人だけに見てもらえればよい」といったことを言うギャラリストは少なくない。
来場者に対しての購入率が低いからそう言わざるを得ないのかもしれないが、見せる人数を絞ったところで業務の無駄は省けても売れる量が増えるわけではない。
むしろ作品を世の中に見せる絶対量が必要であることこそが真理である。
ある程度の量まで作品を見せることなしに売れ始めるということはまずないと思ってよいだろう。
それくらい世の中に作品を見せることの量にはこだわったほうがよい。
例えば、ある作家の展覧会を開催したときに、100人のうち1人が買うような購入率の作品であれば、2,000人に見せれば20点が売れるという計算が立つ。
作品によって購入率は違うし、見る購買層によって購入率が違うのは確かであるが、それでも見せる絶対量がないと購入数が増えることはない。
もちろん、作品のタイプによって購買層のターゲティングは変わってくるし、作品を買ってくれる可能性が高い購買層にアプローチしたほうが購入確率は上がるだろう。
重要なことは、1万人に見せて1人しか買わないような売れにくい作品でも、10万人に見せることができれば着実に10点は売れるということだ。
この露出の絶対量の法則は当たり前のようで、実行に移せてない人が多い。
考えてみよう。
アーティストが年間に作れる作品の量には限界がある。
そのアーティストの作品が売れるまで露出の量を広げることができれば全部売ることは十分可能だということだ。
それまでの努力をしているかどうかが問題なのだ。
もちろん見に来てもらう顧客数だけでは十分でなく、ウェブサイトやSNSのようなオンラインも含めて目に触れる絶対数を増やすことが必要だ。
SNSなどの広報を高頻度にするのはもちろんのこと、広告費用を使ったメディアにも載せて認知を広げなければ、作品を売り切るまでに到達しない。
売るためには露出の絶対量というものが必須であり、その露出の蓄積によって購入者の頭の中に記憶としてどれだけ残してもらうかの競争だと考えてよいだろう。
つまり、印象強く顧客の脳裏に焼き付けることが重要である。
競合するのはアート作品同士ではなく、購入者の脳内の記憶容量の陣取り合戦なのである。
ストーリーを共有する
作品にまつわるストーリーが購入者の共感を呼ぶことができれば買ってもらえる可能性は高くなる。
例えば、技巧的で緻密な作品を好む人がいるとしよう。
その場合、その好む人は技術屋や職人だったりすることもあるし、または几帳面な性格であるのなら、その緻密な作品にかけたアーティストのストーリーに共感することは多いだろう。
それだけでなく、単純に作家の生まれた場所、経歴にたいしてシンパシーを感じてそのストーリーを作品になぞらえて買う人も多い。
重要なのは作品のもつストーリーであり、決して難解なコンセプトではないということだ。
難解なコンセプトが好きな学芸員タイプのコレクターもいるにはいるが、理解されにくいコンセプトは大衆に受け入られにくい。
コンセプト好きな購入者は謎解きのパズルのように作品の意味を探究するが、そのようなタイプは世の中に多くはいないので、共感する人の数を増やすのであればできるだけ分かりやすくストーリーで説明したほうがよいだろう。
購入者が覚えているのはコンセプトよりもストーリーであり、そのストーリーの共感が人の心の琴線をゆさぶり購入に至ることを理解しておこう。
売れていることを見せる
人間は社会的な存在ゆえ、一人では生きていけず、他人に影響されながら生きていくことが普通だ。
他人の影響を受けることは当たり前なので、自分が好きだからという理由で作品を買うだけでなく、他人が評価している売れっ子作家を買うということが当たり前に起こる。
つまり、「売れている=作品の価格が上がる」という理由から作品を買う顧客は決して少なくないということだ。
一般の購入者は自分が評価する作品に対してのモノサシに自信がないことが多いので、他人の評価を頼りに買ってしまいがちだ。
特に日本人は流行に乗っかるタイプが多い。
だからこそ、売る側としては流行に載せるまでの仕掛けを作らないといけない。
そのためには作品が売れはじめるまでのキャズム(障害)を超える必要がある。
キャズムを超えるためには露出の絶対量が必要であり、それは露出の継続的な蓄積によって実現できるのだ。
もちろん、多くの人に見せるだけでなく、同じ人に何度も見せて記憶に残してもらうことも効果につながる。
一度見たことのある作品は、見たことのない作品に比べて圧倒的に親近感を感じるからだ。
つまり「作品を知っている」という安心感を購買につなていくのだ。
売れているアーティストであることを認知してもらうことが重要であり、その第一段階に乗せなければ何も始まらないのだ。
このようにアートが売れる法則の中には、露出の絶対量、共感するストーリー、売れていることを見せるという3つが必要条件としてあり、それらのテクニックの組み合わせよって大きく売上につながるということを覚えておこう。
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