アート作品というものは通常ギャラリーによる一次販売であるプライマリー市場で終わるのではなく、購入顧客が二次販売するセカンダリー市場があり相互補完の関係にある。
プライマリー市場とセカンダリー市場が相互に作用するとアートの市場が大きく成長するのであり、双方の市場規模のバランスが悪いと、アート全体の市場が伸びにくいということになる。
プライマリー市場とセカンダリー市場が滑車のように噛み合うとアートの市場が動き出し、活性化していくのだ。
具体的にどういうことかを説明しよう。
ギャラリーが販売するプライマリー市場ではアーティストの人気に火がついた場合、その作品を欲しいと思う顧客が殺到することがある。
そうすると、作品の供給量が顧客の需要に対して追いつかないので、いつまで経っても買うことができなくて不満を持つ購入希望者が増えてしまう。
いつの展覧会でもすぐに完売となるアーテイストであれば、順番待ちが何年にもなることがあり、その間に買う気持ちも薄れてしまうだろう。
このように買うのが難しい作品を買う方法としてアートのセカンダリー市場があるのだ。
また、ある意味でアートのセカンダリー市場というのは中古車や中古マンションなどのセカンダリー市場とは違うということを理解しておこう。
車やマンションの中古市場の利用法としては「上手に安く手に入れる」手段として使うことが多い。
新品だと高いものでも、中古で掘り出し物を探せばリーズナブルでよいものを買うことができるということだ。
一方アートのセカンダリー市場は、そもそもの考え方がアンティーク市場からスタートしているので希少価値のある作品をどうしても買いたい場合に利用するという視点となる。
中古を安く手に入れるというより、プライマリーで新品を買えない作品、または以前の作風を気に入っていて今は買えない場合にセカンダリー市場で購入するということだ。
従い、希少価値が優先され、欲しい人が多くなると需要と供給の関係で異常な値が付いてしまうのがアートのセカンダリー市場なのだ。
また、乗用車やマンションのような商品と違って、使っているうちに劣化して機能が低下するということがアートは少ない。
ドローイング、版画などのシート作品は湿度の高い日本ではカビやシミができやすいのだが、保管状況のよい倉庫に入れることもできるし、最近の油彩やアクリル絵具は百年くらい経過してもクオリティが劣化しにくいのでますます経年劣化の影響を受けにくくなっている。
さて、アート作品のセカンダリー市場にはよい面と悪い面の2つがあるのだが、うまく活用すれば、そのよい面の影響を受けて作品の価値が上がることがある。
一方でセカンダリー市場の活用がうまく行かない場合に、プライマリーの売り方にも悪い影響を受けることもあるのだ。
具体的にどのようなことかを見てみよう。
セカンダリー市場のメリット
セカンダリー市場ではセカンダリーディーラーという仲介業者がいるのだが、そこには定価で売るディーラーと競売方式で販売するオークション会社がある。
ディーラーは販売価格を公開しないことが多いが、オークション会社のほうは顧客に競争をして買ってもらうためにオークション会社が発行するカタログやウェブサイトにエスティメート(見積り)価格が公開されるし、もちろん落札された価格も公開される。
オークションで高値で落札されると人気が高いアーティストであることが世界中に公開されることになるのだ。
オークション価格は需要と供給によって成立するので正しい価値を測定する意味合いがある一方で、実際にはお金に糸目をつけずにどうしても買いたい購入希望者が競うことでとんでもない価格まで高騰することがある。
従い、1回のオークションで高値が付いたからといって作品の価値が急に上がったわけではないので、一喜一憂せずに数回のオークション結果の平均値のほうが重要なのだ。
どうしてもメディアが高値落札をニュースにしたりするので目立つのであるが、それよりも長期的に落札価格が上がっていくことを重視しなければならない。
さて、オークション市場で高値が出ると通常のギャラリーで徐々に値上げするよりも速いスピードで価格を上げても売れる体制を作ることができる。
オークション市場はギャラリーのプライマリー価格よりも高い価格で落札されることが望ましく、しかも長期的に上がり続けることが大切なのだ。
ここがうまく嚙み合うとアーティストの作品の価値を上げることができるというメリットがあるのだ。
セカンダリー市場のデメリット
セカンダリー市場は上手に利用しないと損をすることもある。
その典型的な例が「転売屋」の存在だ。
転売屋は購入後にすぐにオークションやディーラーを通して販売する人たちをいうのだが、コレクションをしたい人が買いたくても買えないということが起こってしまい、良いコレクターが購入する妨げになっている。
アート作品は長期的にじっくり作品を保有するほうが価値が上がりやすいのだが、転売屋による短期的な売買が多いと将来の価値上昇が望めなくなってしまう。
また、ヤフオクやメルカリといった自由な市場での売買も問題である。ここでは真贋判定もされないし、購入した翌日にウェブ上で出品されることもあるのだ。
偽物である可能性があるばかりか、誰が買ったかの履歴を追うこともできないので、アーティストが将来回顧展をやりたくても作品の所在さえ分からないのだ。
このようにアートはきちんとした形でセカンダリー市場に出すことでよい面を引き出すことができる一方で、短期的な利益を求める転売屋が入ってしまうことによって作家の価値を棄損する恐れがあるということを知っておこう。