マーケティングは、ビジネスの世界では当たり前のことである。
しかし、アートの世界では、その当たり前なことがしっかりと語られることが少ない。
だからこそ、ここではあえて「アートとマーケティングの関係」についてあらためて考えてみたい。
アートの世界は、不思議なものである。
素晴らしい作品を生み出しても、それが誰にも買ったもらえなければ、ただの「飾られない作品」になってしまう。
アートにとって大事なのは、「どれだけいい作品を作るか」だけではなく、「どうやって人に届けるか」でもある。
ここで必須なのが、マーケティングだ。
マーケティングと聞くと、CMなどの広告や市場調査を思い浮かべるような人もいるがもちろんそんな一部のことを言っているわけではない。
マーケティングとは、企業にとって当たり前に行うべき「売り続けるための仕組み作り」のことだ。
特にアートの世界では、一度きりの成功ではなく、長く安定して売れ続ける仕組みが必要である。
ギャラリーやアーティストは、「どうすれば作品を適切な人に届けられるか」を常に考えなければならない。
一般的なビジネスでは、顧客のニーズに応じて商品を作る。
たとえば、冬に売れるのは温かい服、夏には冷たい飲み物。こうした「人が欲しいものを作る」やり方が基本だ。
しかし、アートは少し違う。アーティストは「これが自分の表現だ」と思うものを自由に作る。
そのため、必ずしも市場のニーズに合致するとは限らない。
では、そんな自由なアート作品を、どうやって売ればいいのか? ここで重要な役割を果たすのが、一般的にはギャラリーである。
ギャラリーは、アーティストとお客さんをつなぐ橋のような存在だ。
アーティストが描いた作品をただ展示スペースに並べるだけではなく、それを求めている人に作品の持つ、本質とその魅力を伝える役割を担う。
そのようにしてアーティストの世界観を世の中に広めるのがギャラリーの仕事なのだ。
とはいえ、「いい作品だから売れる」とは限らない。
例えば、レストランで「これは最高の料理です」と言われても、どんな味なのか分からなければ、注文するのをためらうだろう。
それと同じで、アートも「この作品のどこが素晴らしいのか」「どういう物語があるのか」を伝えなければ、買い手の心には響かない。
また、ギャラリーが「売りたい作品」と、コレクターが「買いたい作品」が必ずしも一致しないこともある。
人気の作品はすぐに売れてしまい、「売れ残った作品だけが並ぶ」という状況になることもあるのだ。だからこそ、ギャラリーはマーケティングを駆使して、「売れる仕組み」を作る必要がある。
しかし、マーケティングをアーティストが自分でやるのは簡単ではない。
作品を制作しながら宣伝をし、販売戦略まで考えるのは、料理人が一人で店を回すようなものだ。
ギャラリストは、アーティストが創作に集中できるように、マーケティング戦略を考える役目を担う。
どんな価格で売るべきか、どんな人に届けるべきか、どんなストーリーを伝えれば作品の魅力が伝わるのか。
これらを総合的に考え、アートの価値を広めるのが、ギャラリストの使命である。
では、実際にアート業界ではどんなマーケティング戦略が必要なのだろうか。
まず大切なのは、「アーティストのブランド化」である。
ただ作品を売るだけでなく、そのアーティストの名前や作品に価値を持たせることが重要だ。SNSを活用した発信、展覧会での積極的なPR、ギャラリーとの協力によるストーリー作りが欠かせない。
次に、「作品の価値を伝えるストーリーテリング」が重要となる。例えば、単に「この作品は美しいです」と言われても、なかなか心には響かない。
ギャラリーはこの「物語」を伝える役目を担っている。
また、デジタル技術の活用も避けては通れない。オンラインでの作品展示や販売、SNSによる情報発信など、アートの世界もデジタル化が進んでいる。
ギャラリーはこうした新しい技術を取り入れながら、アート市場を広げていく必要がある。
そして、「価格設定の最適化」も大切だ。価格が高すぎれば売れず、安すぎれば評価も下がる。ギャラリーは市場の動向を見ながら、適切な価格を決める役割を果たす。
さらに、「コレクターとの関係構築」も欠かせない。アートは、一度買って終わりではない。
熱心なコレクターがアーティストの成長を見守りながら、継続的に作品を購入していくことで、市場が育つ。
ギャラリーはそうしたコレクターとアーティストをつなぐ役目を持っている。
アートは、ただ作れば売れるものではない。
どんなに素晴らしい作品でも、それを人に届ける工夫がなければ、誰の手にも渡らずに終わってしまう。
アートにおけるマーケティングは、作品の魅力を最大限に引き出し、それを必要としている人に届けるための「架け橋」なのだ。
アーティストが自由に創作し続けるために、ギャラリーが長く作品を売り続けるために、マーケティングの力は欠かせない。
マーケティングは学べば誰でも実践できるものであり、アーティスト自身が取り組むことも十分可能だ。
ただし、創作と販売戦略の両立は簡単ではないため、専門家となりえるギャラリストと組むことで、より効果的なマーケティングが実現できるのだ。
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F