過去においてはアート作品を主に接客によって売っていた時代があった。
ギャラリーにふらっと来た顧客に作品の魅力をその場で伝え、気に入ったものを買ってもらっていたということだ。
しかしながら、実際にはギャラリーには鑑賞をしに来る顧客が大半であり、買うに気になっている顧客が少ないこともあり、かなりの部分で接客が無駄になることも多い。
だからこそ、購入意思がありそうな顧客には積極的に声をかけるが、そうでない顧客はあまり接遇しないことが多いようだ。
さて時代は変わり、現在はアートを接遇でなくてマーケティングで売ることが一般的になった。
これはアートという商品が接遇によって売れるものではないという理解から、来場した顧客に説明するよりも、来る前の段階で作品説明をして買いに来てもらう「売れる仕組み作り」が重要になってきたからだ。
このように、古いしきたりが跋扈するアート業界においてもマーケターの存在によって売上が大きく変わってくるようになってきた。
従来のやり方では通用しなくなり、データを分析したり、コレクターの顧客心理の読み方を会得することなしにはビジネスが成り立ちにくくなったということだ。
さて、マーケターとはどんな仕事であるかをざっと説明しよう。
マーケターとは、文字通りマーケティングを実行する人を指す。
マーケティングの定義とはフィリップ・コトラーの言葉を借りれば、「ニーズに応えて利益を上げること」なので、つまりマーケターとは「売上をつくり、利益を上げる活動をする人」だといえよう。
市場調査や顧客分析、商品・サービスの企画、広告宣伝といった、マーケティングという言葉から来る業務は、すべて「売上をつくる」という最大の目的を達成するための方法であり、一連の流れになっている。
これまでの日本のギャラリーは世襲による二代目、三代目が多く存在することから、勘と経験によってビジネスをしのいできたのだが、先を行く海外のギャラリーの例を習って、それだけでは安定した経営にはならないことに気付き始め、マーケターの存在がより重要になってきた。
売上を作ることを科学的に分析し、Plan:計画して→Do:実行して→Check:結果をチェック→Action:対策を講じる、いわゆるPDCAを回すという一般企業が普通にやっている行為がギャラリービジネスでも役に立つということがようやく浸透してきたのだ。
マーケターは作家と対峙するときもある
上記のようにマーケターがやっていることがアート界にも徐々に導入されてはいるが、一方で商品企画という部分に至ってはほぼ手つかずの状況である。
一般的な企業ではマーケターは商品企画まで携わることになるので、本来なら販売する作品にかなり立ち入っていかなければならない。
アート界にあてはめると、アーティストが作る作品にどこまでギャラリストが口をはさむのかということになる。
つまり自分が選んだアーティストが作る作品だったらなんでもよいというわけではないのだ。
実はここがアート界においてマーケティング施策が細部まで浸透しない理由であり、マーケターであるならばアーティストと作品作りについては常に対峙していく存在である必要がある。
つまり、マーケターはアーティストが作ったものを売るのでなく、どういう作品を売るのかといったところまで介入する必要がある。
とはいいながら、アーティストという存在は、自分が創造する世界観の中で自由に制作するものだ。
クライアントの言う通りに作っていては、それはアートではなく、デザインやイラストということになってしまう。
結局、アーティストが作りたいものと顧客の欲しいと思うものが必ずしも一致するわけではないことを理解した上で売り上げを作っていくという難しい問題に直面する。
そうすると、アーティストが作れる作品(CAN)、作りたい作品(WILL)、作るべき顧客が欲している作品(MUST)というものをマーケターは熟知し、その3つが重なる部分を拡大することに注力しなければならない。
Can、Wil、Mustの3つのバランスを見極めながらお互いが重なる部分を最大化するためには、マーケターはアーティストが何ができるのか、やりたいのかの対話が必要であり、また顧客ニーズを理解してもらたうめにアーティストと戦うようなことも出てくるだろう。
いずれにしても、日本のアート界がより科学的なアプローチで発展・拡大していくためにはマーケターの存在は必須であり、今後求められていくことが高度化していくことは間違いない。
さて、タグボートがマーケターの立場でおすすめする展覧会をご紹介しよう。
テレビ番組「NEWS ZERO」などのコメンテーターでもマルチに活躍する落合陽一の個展であり、タグボートが企画したものだ。
==
<開催概要>
開催期間:2022年9月28日(水) ~ 10月11日(木)
※最終日のみ1Fは15時閉場、7Fは20時閉場
会場:阪急MEN’S TOKYO 1F main base、7Fタグボート
(〒100-8488 東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急MEN’S TOKYO 1F main base、7Fタグボート)
http://tagboat.co.jp/yoichi_ochiai/
落合陽一氏は東京を拠点に活動するメディアアーティストで、境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開している。
2010年に本格的な作家活動を開始し、これまで国内外での個展やグループ展、写真集の刊行など、精力的な活動を行ってきた。
今回の個展では実験的な試みとして、インタラクティブな新作「ヌル即是色色即是ヌル」を発表する予定です。
また、今回展示するNFTを素材としたアート作品の一部は、オンラインとオフラインのハイブリットでの販売を予定している。
世界が注目する若き才能を、ぜひ会場でご覧いただきたい。
タグボート代表の徳光健治による二冊目の新刊本「現代アート投資の教科書」を販売中。Amazonでの購入はこちら