アーティストという仕事を理解することは重要である。
というのは、アーティストは我々が一般的な社会生活をする上でめったに出会うことのない存在だからだ。
アートは作品という物体のみで評価するものではなく、それを作っているアーティストを知らなければよいコレクションにはつながらない。
アーティストという仕事を知るときに、一般的なビジネスマンと比較したイメージを持たれると裏切られることもあるだろう。
一方、アーティストはお金のことを気にかけずに作品を作り続ける仙人のようなイメージを持つ人もいるだろう。
そのようなステレオタイプなアーティストは実際には少なく、自由な時間があると同時に制作にはストイックにならざるを得ないので努力家が多いのだ。
創造力は人間であれば誰でも持っているものであるが、それを職業としてきちんとお金をもらえるところまで昇華させていくのは簡単ではない。
我々はよい作品をコレクションするうえで、アートを仕事としている人の考え方を理解し、彼らの創造性から生まれる作品に対峙していかなければならない。
才能だけで生きていけない
アーティストは才能で生きていると勘違いしがちだが、実際には才能だけで食べていくのは不可能である。
逆に、アーティストは努力と根性が特に必要な仕事であると言えよう。
というのは、アーティストはミュージシャンや小説家と違って、一発当てると食べていける職業ではなく地道な作業の必要があるからだ。
まず、アーティストとは個人事業主である。
そういった意味では、一般のサラリーマンと違ってすべての行動が自己責任となっている、
個人の世界観を伝える職業であるという意味では執筆活動をしている小説家などに近いかもしれない。
一人で籠ってする仕事であり、本人以外では代替がきかない仕事だからだ。
小説家はベストセラーが出ると売れ続ける出版界の仕組みがあるが、アーティストは傑作となる作品を作っても、それだけで富を生み続ける仕組みがない。
だからこそ継続的に作品を作り続ける努力と根性が必要となってくる。
アート作品は書籍やCDといった工業製品と違って1点ものという希少性が重要であり、希少性がなくなると価値も低くなるという特性がある。
一方、小説家やミュージシャンには書籍やCDが売れると定期的に印税が支払われるが、この仕組みは市場の大衆化によって作られた仕組みだ。
大衆に受け入れられることをよしとするシステムがある業界だからこそ、音楽や書籍は全体としてのマーケット規模がアート市場より大きいのだといえよう。
ミュージシャンや小説家のような一発勝負をすることは難しく、大衆に迎合しないことがよしとされているアート業界ではあるが、そこがイラストやデザインといった業界との溝に繋がっている。
しかしながら、そのままでよいのだろうか。
その打開策として、アーティストは人気がある作品と同じシリーズを作り続けることで、ベストセラー作品のように販売することが唯一の手段かもしれない。
鉄板となる作品を作ることで安定的な収入を築きつつ、それ以外で様々なチャレンジをしていくことでファンをつなぎとめることも可能だろう。
そういう意味ではアーティストとは自由な職業であるが、食べていくためには多くの努力が必要な職業であるともいえよう。
アーティストの自由とは
アーティストは個人事業主であるため月額の安定した収益を得ることは難しく、作品が売れなくなる恐怖との戦いを常に強いられることとなる。
現在も世界中でアーティストの数は増え続けており、その競争はますます激化しているのだ。
過当競争の中でコレクターも様々なアーティストから買う選択肢が増えていることから、ファンであるコレクターが同じアーティストの作品を買い続けてくれる保証は何もない。
何もしなければ将来的にファンが減ることは目に見えているので、ファンを増やしづづける努力をしなければ現状維持も難しいだろう。
さらにはアーティストが制作する作品の価格は一旦上げると今度は下げられないという問題があるので、売れているといってむやみに作品価格を上げることは危険だ。
自分の世界観が世の中に受け入れられたとしても、価格も同時に受け入れられなければならないので、よい作品を作ったから売れるわけではないのが市場の世界だ。
また、どこのギャラリーと組むかによって作品を見せる顧客の範囲や質まで決まってしまうのも事実であり、ギャラリーとの相性や長く続けていく関係性を構築することは重要であろう。
このように、職業としてのアーティストはだれでも参入ができるし、且つ自由があるけれども棘(いばら)の道でもあるのだ。
そこに果敢にチャレンジしてきちんと実績を作っているアーティストはリスペクトできる存在なのである。
そこを理解した上でアート作品を買うことは将来のコレクション構築に大きく役立つことは間違いないだろう。