セカンダリー市場が牽引したこの1年
2021年も残るところあと1か月となった。
今年の国内のアート業界をざっくり総括すると、オークションなどのセカンダリー市場が絶好調であったと言えよう。
またセカンダリー市場で価格が高騰した作品の影響でプライマリー市場をも牽引する結果となった。
総じて、アート業界はコロナ禍が続く中でも昨年のような大きな落ち込みにはならなかったということだ。
さて、オークションでの落札結果が、ギャラリーのプライマリー作品の人気にここまで強くつながったのは日本のアート市場で初めてのことだ。
日本のアート市場は、セカンダリー市場が弱いことがこれまでの特徴であった。
中国や台湾、韓国、香港、シンガポールといったアジア各国のアートマーケットがセカンダリーを中心に回っていたのに対し、日本もようやく後追いの形で進みだしたということだ。
これはコロナパニックによって人流を制限させられたことで、ネットでアートを見たり買ったりする習慣が始まったと同時に、オンラインで気軽にオークションに参加する人が増えたことも影響しているだろう。
オークションが市場を先導するアジアに対し、欧米はより成熟したアート市場ゆえにプライマリーとセカンダリーの両方がバランスよく成長している。
つまり、オークション価格も高騰ではなく着実な値で落札され、それに応じて少しずつギャラリーも価格を上げているということだ。
また、欧米各国の中でもクリスティーズやサザビーズの拠点がある米国や英国は他と比べるとセカンダリー市場が強くなっており、特定の銘柄の作品がプライマリー作品全体の価格を引き上げている傾向にある。
地域によって現代アート市場の成熟度には差があり、日本は先進国の中でもっとも遅れた状況の中で少し前進した1年だったと言ってよいだろう。
コロナの対応がアート市場の格差につながる
アート市場というのは、その国の経済力(GDP)ではなく、その国の成長力によって決まる。
つまり、伸びている国にいる人は投資する余力があり、主に65歳以下の若い労働世代がお金を使っている。
日本はといえば、すでに引退済みの65歳以上の方の預貯金が日本全体の資産に占める割合が多く、投資にはあまりお金が回されていない。
コンサバティブな世代ゆえに、ぱっと見では理解しがたい現代アートを今から購入し始めるのは難しいだろう。
ここ30年でほぼ経済成長が見られない日本に対して、着実に経済力を復活している欧州では、ワクチン接種率が高い国ほど経済が全開しておりGDPは上向き傾向にある。
現在の英国、ドイツなど欧州諸国のコロナの感染者数は日本より二桁も多いが、ワクチン効果で死者数が限定的になったことから経済成長に大きく舵をとっているのだ。
その影響を受けてあらゆる購買需要が高まっており、これまでのロックダウン下にあった経済の沈下を取り戻している。
急なインフレによる物価上昇が懸念されてはいるが、給与の上昇も同時に実現することで健全な経済復活が期待されている。
一方、賃金は上がらないのに物価だけ上がるスタグフレーションに踏み出している日本経済は深刻だ。
追い打ちをかけるのがアフリカ南部から変異したオミクロン株であり、日本が鎖国政策をとることでさらなる経済の停滞が進む中で、米国は経済を重視した方針を貫いている。
「米国は全面封鎖はしない」とバイデンが言っているとおり、経済リスクとオミクロン株のリスクを冷静に判断しようとしているのだ。
かたや日本では経済のけん引役である製造業は水際対策のおかげでサプライチェーン(供給網)が停滞して混乱に陥いる可能性がある。
個人消費が低迷している中、欧米の経済が復活することで自動車など製造業が回復途上ではあるが、国内市場は復活が見込めないままだ。
例えば、乗用車の部品は日本市場に回されずに旺盛な欧米市場に優先されており、日本で新車を購入しても半年待ちが当たり前となっているのだ。
ワクチン接種が普及し来年以降の経済活動の正常化が期待されていたが日本ではあるが、新たな変異株の出現で日本経済の先行き不安は高まっている。