前回のコラムでは、コロナ時代の後にはアートマーケットが拡大していくことを述べた。
今回はその拡大するアートマーケットの中でどのような作品が評価されていくのかをお話したい。
コロナ時代には見える世界は変わらないが、見えない敵に対する恐怖が世界を包みこんで人々の心が変容していく。
その中でアーティストも自分自身や人々の心の変化を表現していくと同時にコレクターも変化していくだろう。
これから溢れ出る数々のアート作品が売れてアートマーケットが拡大すればよいのだが、そこには大きな障壁があることに我々は気付くだろう。
それは、コロナ時代の後すぐは「人がモノを買わなくなる」という習慣が定着し、特に不要不急とされるアートの需要が回復するには時間がかかるということだ。
それまでにアートが人々の生活にもたらす重要性を説いていくとともにアートマーケットが拡大するまでの下準備が必要となるだろう。
さて、そもそもアートは不要不急の代物だろうか?
文化はどの時代にも必要であることを悟るべきではないのだろうか?
災害の渦中にいるのならともかく、健康な人であれば家に閉じ籠っているにも限界があり、どこかで文化を欲するはずである。
その中でも、アートは不要不急なものかというと、そうだと主張する人はこのご時世に多くいるだろう。
一方でどんなときにも文化的生活を維持すべきだという声もあるだろう。
どちらが正しいということではなく、ここではコロナ時代の後にアートは急ではないが必要なものであるという認識に変えてもらわなければならないということだ。
同時に文化の面だけでなく資産であるというアートの特徴をコロナ時代にこそ知ってもらう必要があるのだ。
音楽、演劇、映画などの文化がフロー(目の前を流れていく)であるのに対し、アート作品はストック(資産として蓄積される)であることが大きな違いである。
文化を人生経験や瞬間の楽しみとするのは消費する「フロー」の考え方であり、文化を収集し価値を高めていくのは文化を貯蓄する「ストック」として、アートはコロナ不況に打ち勝つにはまさにうってつけなのだ。
不況の時代にこそ、フローよりも着実にストックしていく文化が好まれるだろう。
とはいいながら、アートも不況になると株式や不動産などと同じように価格が下落する商品のひとつである。
もちろん下落するのは相場モノと呼ばれるオークションなどに出ているセカンダリー作品である。
不況の時代は作品を安く買える絶好の機会といえるだろうが、実は不況のときによい作品が出てくるかというとなかなか出てこないのだ。
それは相場が悪いと高く売れないことを知っているコレクターはその時期に合わせて作品を出してこないからだ。
一方、オークションでは俗にいう3Dと呼ばれるタイミングで作品が放出される。
それはDeath(死)、Divorce(離婚)、Debt(負債)またはDefault(破産)であり、そのような状況で持っていた作品を手放すことが多いということだ。
このコロナ時代には多くの飲食店や観光・宿泊業種、娯楽関連が軒並み倒産するだろう。
そうすれば、Debt(負債)またはDefault(破産)を原因として作品が世に出されることになるに違いない。
きちんと見定めをすれば、掘り出し物を見つけて安く買える可能性も高いということだ。
好不況の影響を受けてセカンダリー作品は大きく上下するので、うまいタイミングで買うには情報の収集が必要であるが、一方プライマリー(ギャラリーからの購入)の作品については不況だかといって価格が下がることはない。
逆にいうと、飛び切りの作品を買うことができるチャンスなのだ。
不況で相場が悪い時代には必ず勢いのあるスタートアップが出始めているという法則がある。
FacebookやTwitterは創業から4年以内のタイミングでリーマンショックを経験している。
さらに2008〜2010年の不況真っ最中の期間は、Uber、Airbnb、Instagramが誕生した時期でもある。
もっと過去を振り返れば、マイクロソフト(1975年)とアップル(1976年)が誕生したのは、石油ショックと不況が重なっているときだ。
アートについて言えば、1990年代前半のイギリスの経済低迷と不動産不況のときにYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)とよばれる新しいアーティストたちが出てきた。
ダミアン・ハーストを始めとして、トレイシー・エミン、レイチェル・ホワイトリード、ダグラス・ゴードン、クリス・オフィリといった今のスターたちはこの時期に出てきているのだ。
さて、今のような迫りくる大不況を前にどのように新しいアーティストの芽を発見するかについては、次のコラム「不要不急のアートが必要となる時代 -その2-」の中で説明したい。
オンラインサロン会員限定となるが、是非とも知っていただきたい内容である。