アートにおける投資の意味合い
一般的に「投機」は、対象となる商品を短期間で安く買って高く売ることによって売買差益を得ることを目的としている。
従って、アートの世界における「投機」の意味合いは、セカンダリー市場に出てくる著名作家の作品を短期間で売買することといってよい。
すでに世間に認知されている安定的な価値を持つ作品を安く仕入れて、どこかのタイミングで売りさばく行為がアートの投機なのだ。
投機を目的とした人にとっては、売ることができない作品は最初から興味がなく、販売可能であることが前提で作品を買っている。
アートの投機を株式投資と比較してみると、上場企業の株式を短期売買することに近いと言えよう。
ご存知の通り上場企業というのは一定の基準を満たす安定した会社であるがゆえに、スタートアップの株を個人投資することと比べると、上場企業の株の売買で大きく損をすることも少ないが、一方で大きな値上がりも望めないのが特徴だ。
投機をするならば、アービトラージ(裁定取引)で利益を狙うデイトレーダーとまでは言わないが、アートの場合においても手数料が安いプラットフォームで売買することが重視されるだろう。
そうなると、アートも金融商品や不動産のような形で作品がデータ化、記号化されて売買されていくこととなる。
従って、キャラクター作品のように記号化された分かりやすい作風がほうが好まれる傾向にあるだろう。
上記がアートの「投機」であるが、それと比較したアートの「投資」について考えてみよう。
アートの投資とは購入後も長期的に作品を保有することが前提であり、著名作家の売買だけではなく成長段階のアーティストの作品を買うことを意味している。
つまり、投資家がスタートアップのようなまだこれからの企業に出資するようなものが意味合いとして近いと言ってよいだろう。
スタートアップであれば上場企業と違って安定していないし、業績が落ちればすぐに潰れてしまう可能性だってあるのだ。
アーティストも同じであり本格的な売れっ子となるまで生活は苦しいだろうし、途中で制作活動をあきらめてしまうのはよくあることだ。
これからの若手アーティストの作品を購入することはスタートアップ投資と同じように、すぐに高い評価が付いて価格が高騰することは稀であるが長期的な視点で作家の成長を見守ることで最終的に大きな利益を獲得ということを目的としている。
その場合に、作品の「現時点」での評価ばかりを気にし過ぎず、その後のアーティストがどのように作家として成長する可能性があるかどうかが重要なのだ。
例えば、事業投資家はスタートアップ企業の事業計画書やパワポの資料だけを見て投資の判断することはない。
また、ビジネスモデルの目新しさやそ先見性も大事であるがそれだけで判断しているわけではない。
多くの成功する投資家はスタートアップの起業家と実際に会って話を聞いたうえで、起業家の野心、頭の良さ、忍耐力などを見るのだ。
作品はあくまで作家個人が作るものであり、企業のようなチームプレーや経済合理性を求めないことから、スタートアップの起業家よりも人としてのキャラクターをより重視するのがよいだろう。
アーティスト個人の可能性に賭けることがアート投資の真骨頂であり、作品の目利きよりも人間観察力であり、現時点の作品の良し悪しだけで将来は判断できないのだ。
そうすると、アーティスト側も常に成長しなければならないし、作品もアップデートし続ける必要があるということだ。
タグボートの考えるアート投資
以上のようなことから考えると、アート作品を買う場合には作家個人と事前に会っておきたいと思う人は多いだろう。
しかしながら、一般のギャラリーで作品を買う場合にアーティスト個人と会おうとすれば、その作家の個展のオープニングの日に行かないとなかなか会うことはできない。
もちろん、それ以外にアーティストがギャラリーに在廊していることもあるだろうが、作家の在廊日時を逐一チェックしながらそれに合わせてギャラリーに行くのは時間効率からもかなり厳しいだろう。
それを克服できる手段がアートフェアであり、短い期間に多くの出展作家に会える可能性があるのだ。
それでもギャラリーが出展する一般のアートフェアではアーティストがブースにいる確率は50%もないであろう。
あくまでブースを仕切るのがギャラリーで複数人の作家を展示しているため、メインがアーティストではないからだ。
そういった意味では、タグボートの主催する「tagboat Art Fair」は90人のアーティストそれぞれが個展ブースを持っていることが特徴である。
各ブースにはかなり高い確率でアーティストがいるために、アーティストと直接話をして買うことができる。
アート投資はあくまで作家のキャラクターありきであるというタグボートの哲学そのものをtagboat Art Fairは具現化しており、購入者には若手作家の長期的な成長に賭けてほしいと願っている。
このタグボートの哲学はIndependent Tokyoというタグボートの若手アーティストの発掘イベントにも引き継がれている。
8月の開催であるが、こちらはさらにギャラリーにも所属していない作家がほとんどであり、リスクはあるものの作家にとっての最初のコレクターになりえるという「うまみ」もあるのだ。
是非、楽しみにして頂きたい。
◆「Independent Tokyo 2023」
日程
2023.8.5(土)11:00~19:00
2023.8.6(日)11:00~18:00
会場
東京ポートシティ竹芝 2F
東京都立産業貿易センター浜松町館
【公式サイト】
https://www.tagboat.com/artevent/independenttokyo2023/exhibition.php
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