ホリグチシンゴの作品を見たとき、最初はそれが絵だとは思わなかった。
まるで未来の街の設計図や、模型を撮った写真のように見える。でも近づいてみると、絵の具の質感や筆の跡がはっきりと分かる。
よく計算された形の中に、偶然生まれたリズムが流れている。
ホリグチシンゴは、京都や奈良の歴史ある町で育ち、関西の有名な進学校を卒業した後、多摩美術大学の大学院で日本画を学んだ。
彼の作品には、日本画の伝統が息づいているが、表現の方法はまったく新しい。
作品を生み出す「計画」と「偶然」
ホリグチシンゴの作品は、まるで実験のように作られる。まず厚紙で小さなブロックを作り、それを組み合わせて小さな街のような形を作る。
次に、それを写真に撮り、コンピュータで形を整理し、新しいイメージを作り出す。そして最後に、そのデータをもとに手で描き直し、絵として仕上げる。
この作り方には、「計画」と「偶然」が入り混じっている。
ブロックを積み上げるのは計画的な作業だが、それが崩れたり、重さで形が変わるのは偶然の出来事だ。
写真を撮るときには構図を決める計画があるが、コンピュータ上で色をランダムに変えることで、新しい偶然が生まれる。
こうして、意図と偶然が何層にも重なりながら、一つの作品が完成する。
彼の作品には「家」や「街」のような形がよく登場する。
これは、彼が京都という街で育ったことと関係があるのかもしれない。
京都の街は、碁盤の目のように整った形をしており、そこにさまざまな時代の建物が積み重なっている。
ホリグチの作品もまた、伝統的な日本画の技法と最新のデジタル技術が組み合わさって、新しい風景を作り出しているのだ。
新しい世界への入り口
彼の作品を見ると、「ここはどこだろう?」と不思議な気持ちになる。
確かに街のように見えるが、実際にはどこにもない場所だ。
まるで夢の中で迷い込んだ都市のように、見覚えがあるのに、まったく知らない景色が広がっている。
「僕はまだ誰も見たことがない場所を探しているんです」とホリグチは言う。
彼にとって作品を作ることは、未知の世界を探検することなのだ。
毎日、色を変えたり、形を組み替えたりしながら、自分でも予想できない新しい場所を作り出している。
彼の作品には、もう一つの大きな特徴がある。
それは、「人間の手」と「機械の作業」、「自然の偶然」が組み合わさっていることだ。
彼はコンピュータを使いながらも、最終的には手作業で作品を完成させる。
まるで機械が作ったように見えて、実は手作業の温かみがある。
ホリグチ自身も、「自分は機械的な作業と、動物のような直感を繰り返しているだけで、それが本当に芸術と呼べるのか分からない」と語っている。
さらに、彼の作品には「積み重ねる」要素がある。
日本画の技法では、下絵を描き、墨で線を入れ、そこに色を重ねていく。
この段階的な作業の仕方が、ホリグチの作風にもつながっているのだ。デジタルの技術と手描きを繰り返しながら、作品は少しずつ姿を変えていく。
そして彼の作品に使われる色彩は、まるで都市の空気を映し出しているようだ。
京都の街並みが落ち着いた色合いをしているように、彼の作品にも土地の色の感覚が宿っている。
しかし最近では、より鮮やかな色を取り入れることも増えている。
そこには、「自分の作風をどんどんアップデートしながら、もっと遠くへ行きたい」という彼の思いが込められているのだ。
そんなホリグチシンゴの作品は、ただの絵ではなく、新しい世界へつながる「入り口」のような存在だ。
彼の作品を部屋に飾れば、そこに新しい街が生まれる。そして、その街を眺めることで、自分自身の新しい物語が始まるかもしれない。
ホリグチの作品を手に入れることは、まだ誰も見たことのない景色へ旅立つことなのだ。